その昔ネイティブアメリカンが追いやられた居留地である
ウィンドリバーが舞台の本作。
〖事実に基づく〗ストーリーに秘められた現実は過酷なものでした。
制作するということにこそ意味があったこの映画の
制作サイドのメッセージとは何だったのでしょうか。
劇中には
事実に基づくと思われる恐ろしい現実が潜められています。
この記事ではどんな恐ろしい事実が存在するのか?
という疑問に寄り添いその背景を簡潔に考察しています。
※この記事は作品のネタバレを含みます。
【ウィンド・リバー】作品概要
本日の東京は風も強め爽やかでいくらか過ごしやすく・・
— 映画「ウインド・リバー」公式 (@windriver2018) August 17, 2018
そして夕方6時30分からTBSラジオ「アフター6ジャンクション」内の「宇多丸最新映画評」コーナーで #ウインド・リバー が取り上げられる予定です。#宇多丸 さんの評論、楽しみです! pic.twitter.com/c5c6pvIyrX
公開:2017年
監督・脚本:テイラー・シェリダン
(『ボーダーライン』『最後の追跡』)
キャスト
・ジェレミー・レナー(コリン・ランバード)
・エリザベス・オルセン(ジェーン・バナー)
・グラハム ・グリーン(ベン・ショーヨー)
・ギル・バーミンガム(マーティン・ハンソン)
・ケルシー・アスビル(ナタリー・ハンソン)
・ジョン・バーンサル(マット・レイバーン) 他
『ウィンド・リバー』は実話ではないが実態が込められている
『ウィンド・リバー』の物語自体は実話ではありません。
しかしながら、監督自らネイティブアメリカンとその居留地について取材を施しており
物語には事実に基づく実態とその問題を提起すべく強いメーセージが込められています。
物語の舞台になった〖ウィンドリバー〗も
実際のネイティブアメリカンの保留地の一つです。
そしてその場所ではアメリカの地下核実験が行われているという話もあります。
当初、白人の開拓によってネイティブアメリカン(以下先住民と記します)
達を保留地に住まわせるというのは友好的な条約のもと執り行われたといいます。
しかし入植者は増え続け、条約は破られた結果、
先住民の自然に恵まれ農業に適した豊かな土地は連邦政府に奪われ
先住民たちは何の縁もない見知らぬ事実上隔離された土地で住むことを強いられました。
その土地さえ、どんどん減少するばかりか、
与えられた土地自体も農業に適さない価値のない土地であったのです。
(現在グランドキャニオン国立公園やヨセミテ国立公園なども
元々は先住民の土地であったと言われています。)
そんな状況下で暮らすしかない先住民の暮らしは厳しく、
病気発症率、犯罪率、失業率など全米の約2~7倍という高倍率だそうです。
ネイティブアメリカンVSアメリカの構図は進行中
以上のことから先住民たちはアメリカ政府や白人を敵対視しています。
劇中でも白人(アメリカ政府)VSネイティブアメリカン
という構図が以下の通り描かれています。
・逆さまのアメリカ国旗が掲げられている。
・少女が事件に巻き込まれたという状況に、
検証にきたのはその土地に無知な女性刑事1人だけ。
・事件の被害者である父親が捜査に来たFBI刑事(白人)に対して悪態をつく。
など。
ジェーン以外のFBI捜査官が来ない理由
ウィンドリバーは連邦政府の土地であり、
劇中でも殺人事件ならばFBIの管轄だと言っていました。
しかし司法解剖の結果が示したのは、ナタリーの死因が
ピートたちから逃げるため極寒の中10キロに及び走ったこと
による肺への打撃がもたらしたもの。
それでは殺人事件とは言えず、FBIの応援を呼ぶことは出来ませんでした。
FBIが管轄から外れると居留地の部族警察が取り仕切る訳ですが
広大な居留地を守る部族警察官はたったの6人のみ。
つまりは殺人事件でなければ、その裏に犯罪が潜んでいたとしても
徹底的な捜査は行われないと言っても過言ではないでしょう。
それはその地が事実上無法地帯であることを意味しています。
コリンの娘の事件とナタリーの事件
主人公のFWS(合衆国魚類野生生物局)職員・コリンも娘のエミリーを
事件で亡くしています。
エミリーの事件とは
コリンと当時の妻が子供たちを残して外出してしまった日に起こります。
エミリーはパーティを開催してしまいます。
そしてそのパーティーに不特定多数の人間が訪れてしまった結果、
エミリーは悲劇に巻き込まれました。
エミリーの亡骸はコヨーテによって司法解剖も意味をなさず、
犯人の手がかりもなく事件は未解決のまま。
劇中で冒頭、事件の被害者となったナタリーはエミリーの親友でもありました。
親友同士の二人が短期間で別々の事件に巻き込まれて悲劇的な最後をとげるという事実。
このことは、居留地というその場所での
女性が巻き込まれる犯罪率の高さを誇示していると言えるでしょう。
『気付かなかったのか』
ナタリーの悲劇の直接の原因は、居留地の極寒と雪の厳しさと言えます。
しかしながらその雪の中逃走しなくてはいけない原因を作ったのが
ナタリーの恋人マットの同僚たち。
同僚の恋人に暴行をするとか考えられないことも起こりうるということなのでしょう。
しかもFBIに追い詰められながら、
彼らを囲み反撃にでるという驚異は
フィクションであって欲しいと切に願ってしまう行為です。
現地を良く知る保安官助手のエバンがFBI捜査官に言う台詞。
『(俺たち(白人)の周りを犯人たちが3方向から取り囲むのを)
気付かなかったのか。 気付かなったんだな。』
その土地を知らないFBI捜査官が気付けなかった、または潜在的にあり得ないことだと
警戒しなかった、まさかの出来事だったのです。
【ウィンド・リバー】に込められたメッセージ
ナタリーが逃げている最中
理想郷を追い求め、現実は泥の中だったと言うナレーションが入ります。
将来があるはずの若い女性だったナタリーの過酷な現実が描写されています。
一方
ナタリーを悲劇に追いやったマットの同僚たちは
マットという仲間に手をかけておきながら悪いことをしたという認識はなく、
その中でもナタリーに暴行をし、事件のきっかけをつくったピートもまた
仕事がない
楽しみがない
女性もいない
だから事件を起こしたのだと言わんばかりの発言をします。
悪いのは犯人たちであることは間違いない。
けれどもその生きる環境は過酷すぎて
お酒におぼれる、薬物を乱用する、絶望感から自ら命を絶つ者もいるかもしれない。
あるいは行き場のない憤りから罪を犯す者。
という負の連鎖は起こるべくして起こっています。
本作の被害者側であるナタリーの父・マーティン
と同じように娘を失くした主人公コリン。
2人はナタリーに悲劇をもたらした犯人が誰であろうとその場で抹殺することを
固く誓いあうのです。
娘の事件が迷宮入りしたコリンはナタリーの仇をとることで
少しでも無念をはらしたいという思いだったのかもしれません。
同時にそれは犯人たちが野放しになっている
ということへの抵抗でもあります。
居留地で悲惨な事件に巻き込まれるネイティブアメリカンの女性たち。
念押しするように
劇中のラストに流れる衝撃的なテロップが視聴者に更なる一撃を加えます。
ネイティブアメリカン女性の失踪者数のデータは存在せず
失踪者の数は不明のままなのだ
・・・と。
その現状を変えなければならない
そんな問題提起が込められているのではないでしょうか。
【ウィンドリバー】を見た感想
私自身、アメリカに憧れていて、願わくは移住できたら最高だなと
思っていた時期がありました。(まだ完全に諦めきれてはいませんww)
しかしそんな大国アメリカにも闇は確かにあって、
アメリカを好きだと主張するならばそういうところもしっかり学んで行かなければ
いけないなと感じました。
日本でも格差社会というのは確実にあって
それは問題視されつつも今のところ解決策はありません。
だからといって目を背けることをしない・・・という意思が
今できる最小限のこと。
まもなく公開されるであろう本作の続編
『Wind River:The Next Chapter(原題)』
まだ描き切れない残酷な真実が存在するのでしょうか。
遠く離れた日本のこの地から、もし何らかの変化を起こす手助けができるとしたら
それはその物語をこの目で見て現実を知るということなのかもしれません。
※本記事の情報は2023年6月時点のものです。
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