『野火』(2015)、『斬、』(2018)を手掛けた塚本晋也監督が
終戦直後の闇市にフォーカスし戦争に人生が狂わされた人々の絶望と苦悩
を描いたヒューマンドラマ映画『ほかげ』。
目を覆うような残酷描写はないものの、
戦争の恐ろしさは十分に伝わってくる作品でした。
戦争により受けた傷跡を抱えて生きて行く人たちの
結末はどうなるのか?
銃声の意味についても考察しています。
『ほかげ』あらすじ
🏆第97回キネマ旬報ベスト・テン🏆
— 映画『ほかげ』 (@hokage_movie) February 1, 2024
個人賞発表!
2023年のキネマ旬報ベスト・テン #ほかげ にてW受賞です!
★主演女優賞 趣里さん
★新人男優賞 塚尾桜雅さん
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第二次世界大戦後の日本、焼け野原となった地でどうにか残った
小さな居酒屋を営む女性がいた。
この女性は戦争で家族を亡くし、食べて行くためには
娼婦を兼任するしかなかった。
ある日、女性の元に食べ物を盗もうとした少年が現れる。
少年も家族を空襲で失くし、盗みをはたらきながら
生きながらえているようだった。
一度は少年を追い返した女性だったが
家族を失くした者同士、疑似親子的生活が始まった・・・。
キャスト
趣里、森山未來、塚尾桜雅、河野宏紀、利重剛、大森立嗣 他
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以下、結末までのネタバレを含みます。
未視聴の方はご注意ください。
本記事の情報は2025年7月時点のものです。
最新の配信状況は各サイトにてご確認くださいませ。
『ほかげ』のストーリーを解説
家族を失って、望まぬ労働をしながら生きるしかない女性
の元に、戦争孤児の少年と、斡旋された復員性の好青年が現れます。
3人は疑似的家族として一緒に生活をするようになりました。
しかしそんな幸せな日々は長くは続きませんでした。
ある日のこと外に響いた銃声のような音を聞いた
復員兵の男性は豹変してしまいました。
女性に襲いかかり、少年を外へ投げ飛ばしてしまいます。
叫びをあげながら逃げ惑う女性でしたが、
投げ飛ばされた少年が現れ、復員兵の背後に銃を突き付けて
事はおさまりました。
それから少年と2人きりになった女性は
少年を坊やと呼び、彼に盗みはやめてきちんと働くことを
諭しました。
しかしある日坊やが頭に血を流し帰宅したのです。
女性は坊やが盗みを働いていた闇市では仕事が出来ずに
危ない仕事をしているのだと悟りました。
そして坊やは知らないテキ屋のおじさんから仕事に誘われていると
いいます。
しかもその条件は坊やが持っている拳銃を持って来ることでした。
そんな怪しい仕事は許せない女性でしたが、口論の末、
「あんたなんか好きじゃない。出て行って」と発してしまい、
坊やは知らないおじさんの元へ行ってしまいました。
おじさんの目的は復讐
それからテキ屋のおじさんと少年の旅が始まります。
さらわれた孤児が売られる様子を目の当たりにしたり、幽閉されている男性
(精神が壊れてしまった元兵士)を目撃する少年とおじさんでした。
おじさんの目的の屋敷にたどり着くと、物陰に隠れた2人は、
ある夫妻の団らんを目にしました。
おじさんは夜になったらあの夫妻の男の方を連れてくるように
少年に言いました。
その男とおじさんは戦時下で上司と部下という間柄だったのです。
そしておじさんの目的とは
捕虜を殺すことを強要した上司に対する復讐でした。
少年から銃を借りたおじさんは上司によって狂わされた
かつての友人の仇をとるように、名前を呼びながら一発ずつ
上司の男に撃ちこみました。
3発撃った後、最後に自分と捕虜の分だといって
男の頭に銃を突きつけるおじさんでしたが
引き金を引くことは出来ませんでした。
次に自らのこめかみに銃口をあてるも
やはり引き金を引くことができずに銃をおろしました。
おじさんの代わりに男に向けて引き金を引こうとした
少年でした。
しかしおじさんはそれを静止し、男に向かって
一生その痛みを抱えて生きて行け
と放ちました。
一発の銃声
おじさんとはそこで別れることになった少年は
女性の住む居酒屋へ戻りました。
しかしやはり女性は顔を見せずに、近寄らないように言います。
女性は病に侵されていたのです。
感染を防ぎ、変わり果てた自身の姿を見せたくない
という理由からふすまを閉じたまま話はじめました。
先日言った「好きじゃない」というのは
病気のことを隠したかった女性の嘘だったのだと。
それはほんの一瞬だったけれど疑似親子生活は
幸せだったと。
少年には盗みのような犯罪ではなく、
きちんとした仕事をしてしっかり生きて行って欲しいと言いました。
そして拳銃は置いて行きなさいと。
言われた通り、拳銃を置いて立ち去った少年は
闇市へ向かいました。
盗みをしたことのある店で皿洗いを始めた少年は
店主に投げ飛ばされます。
それでも皿洗いに戻っては突き飛ばされ血を流す
少年でしたが諦めることはありませんでした。
何度も何度も挑む少年に根負けした店主は
皿洗いすることを許し、
そっと食事を出し、賃金を払いました。
少年は賃金を握りしめ、病が治るように、
食事を入手しようとしますがお金が足りず、
上等な洋服を手に入れようと物色していました。
その時、一発の銃声が響き渡りました。
少年は手にしていた服を手放し、
闇市の人込みの中へ消えて行きました。
『ほかげ』の結末をネタバレ考察
病気に侵されてしまった女性とも
テキ屋のおじさんとも共に生きていくことは
出来ず孤独になってしまった少年でした。
その少年はラストで女性の病気を治そうと
食事や洋服を物色していましたが
銃声を耳にするとその手を止め、人込みの中へ
去って行ってしまい物語も幕を閉じました。
最後の銃声は何を意味する?
最後の銃声は女性が自ら命を絶ったという示唆
だったのでしょう。
テキ屋のおじさんがわざわざ少年に銃を使う仕事
を依頼したのも、銃を手に入れた方法を少年に尋ねたのも、
元兵士であっても、そうそう銃は手に入らなかったことが推測できます。
そしてその銃に入っていた銃弾は4発のうち3発を使い、
1発だけ残った状態で女性の元にあったのです。
そんなところから女性が自らに向けて発射した
ということなのではないでしょうか。
そして女性の死を察知した少年はもう必要なくなった
服を手放し、それでも女性の最後のことばを胸に、
一人で生きて行く未来へと進んだのです。
不条理な世界に救いはあるのか?
本作では戦争に狂わされた人々の苦悩や絶望が描かれています。
そんな中に救いはあったのでしょうか?
斡旋されて来た復員兵は好青年のような印象でありながら
銃声がトリガーになり恐怖に囚われ豹変してしまいました。
少年に追い出されたその後は廃人として少年との再会
を果たすのです。
少年はその際、元教師であった彼に
一冊の教科書を返して帰りました。
その教科書で何かが変わるのか?
戦地に身をおかれた者の代償を手放すのは
そんなに容易ではないかもしれません。
しかし彼にとってあの一冊の教科書は人生を再生する
第一歩になり得るのかもしれません。
少年自体も空襲で家族を失くし、無力な子どもが一人で
生きていく術として盗むという行為を繰り返していました。
しかし最終的には盗みに入った店に赴き、
女性が願ったように、正しく生きる道へ
進んでいくことを試みます。
当然店主からすればその少年は損失の象徴であって
受け入れ難い存在として何度も突き放しました。
それでも諦めなかった少年の心もさることながら、
少年を許し、受け入れた店主の心にも
希望が垣間見れたのではないでしょうか。
『ほかげ』感想
戦争が終わり運良く生き延びれた人たちの
その後の地獄は壮絶でした。
本作の主人公の女性はおそらく我が子を失う瞬間を
その目で見たのでしょうし、
爽やかに好青年に見える復員兵も恐怖が消えることはありません。
テキ屋のおじさんも自身の罪や憎しみに囚われ続けています。
そんな日々は生きた心地のしない真っ暗闇なのでしょう。
少年でさえも、おそらく家族を奪った空襲の恐怖を思い出し、
夜中にうなされているのです。
戦争は人の心を壊し、
人ならざるものへと変えてしまうという恐ろしさを
思い知らされます。
戦いが終わったとしても、参戦した者の壊された心は
元に戻ることは難しいのだと強く描かれていました。
監督が、また争いの日々へと歩みよっていくような
世の中が心配になって制作したという本作。
暗く、辛く、悲しいと刻まれるほど、
その大きな傷を2度と作らぬように、
という監督の願いに感銘を受けました。
大人の誰一人として救われない物語のラストで、
他人を思いやり、手を差し伸べ、自らは
生きていくという決意を胸にわずかな光へ向かって
歩き出す少年の姿がせめてもの救いでした。