第96回アカデミー賞の国際長編映画賞などを受賞した映画
『関心領域』
原作者マーティン・エイミス氏の同名小説から着想を得た物語です。
本作に登場する、アウシュビッツ強制収容所の隣人は実在した
ナチス司令官ルドルフ・ヘス一家を元に描かれているのだそうです。
そんな実話に基づいた登場人物と音の世界。
それは同じ人間でありながら隔てられた光と暗黒の世界でした。
本作で描かれたもの、
一個人の解釈などを綴っています。
『関心領域』はどんな映画?
#A24
— 『関心領域』公式アカウント (@ZOI_movie) January 19, 2024
カンヌ国際映画祭グランプリ受賞
ゴールデングローブ賞3部門ノミネート
アウシュヴィッツ収容所の隣で幸せに暮らす家族がいた
『#関心領域』
TheZoneofInteresthttps://t.co/xpDNskCRCT
5月24日(金)公開決定 pic.twitter.com/UsRXBAwMuU
第二次世界大戦の最中、アウシュビッツ強制収容所の隣で暮らす高官一家
の日常を描いています。
収容所に隣接した邸宅で暮らす司令官ルドルフ・ヘスと
その妻・ヘートヴィヒは子供たちと共に幸せに暮らしていた。
へートヴィヒはその邸宅を良く手入れされた美しい庭園に花々を咲かせる
など夢に描いた理想の城に作り上げたのでした。
ヘス一家の使用人が運んでくる荷物にはあらゆる国の物、
毛皮などの服飾や金品などがあり、へートヴィヒはそれらを自ら楽しんだり、
残り物は使用人に分け与えたりしていました。
そんな中、ルドルフは収容所の焼却炉で一度により多くの数を処理するための
策を日々練っていました。
キャスト
クリスティアン・フリーデル、ザンドラ・ヒュラー、ラルフ・ハーフォース、
ダニエル・ホルツバーグ、サッシャ・マーズ 他
『関心領域』はどこで見られる?
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以下、結末のネタバレを含みます。
未視聴の方はご注意ください。
本記事の情報は2025年4月時点のものです。
最新の情報は各サイトにてご確認くださいませ。
『関心領域』考察と感想
これまでにアウシュビッツが舞台になった映画は何本か鑑賞していますが
筆者が見たのはどちらかと言えば収容所の中の世界を色濃く描いたものでした。
しかし本作ではこの収容所の中の人物ではなく、
そこを支配する側にスポットを当てその日常を淡々と描いているのです。
ヘス一家が隣で行われていることさえも
日常の一部と化していて気にすることもなければ
むしろその場所を楽園のように思っているという心情が
恐ろしく悲劇でした。
実在した人物が登場する本作を創るにあたって
徹底した取材が行われ、ヘス一家の邸宅についても
実際の家の近隣のスペースで再現されたのだといいます。
さらに実際にもその地域は『関心領域』と呼ばれていたのだそうです。
本作はそんなヘス一家の日常を退屈なまでに淡々と鑑賞させられるのですが
それは一見、幸せに暮らす一家の日常に過ぎないのです。
時が戦時中で、その楽園が暗黒の世界に隣接していなかったのならば・・・。
幸せなだけの日常を見せられる中で、うとうとしそうになった時、
確かに聞こえているのに登場人物の誰も言及しない『音』について
鑑賞者は異変と気味悪さを感じとるのです。
音が奏でる暗黒の世界
劇中ではアウシュヴィッツで行われていた残酷な出来事は映し出されることは
ありませんでした。
しかしそれは音によって不穏な想像を掻き立てられます。
むしろ見せられるよりも深い恐怖と残酷さを痛感するかもしれません。
叫び声のような声は誰のものだろうか?
あの銃声で撃たれたのは何者か?
誰かが怒鳴っているのだろうか?
そんな不穏な音に耳を澄ませながら
画面に映る幸せそうな日常に違和感を覚えていきます。
なぜ聞こえないふりが出来るのだろうかと。
ヘス一家の実態とは
本作の主人公は実在したアウシュビッツ収容所の所長一家を
元に描かれているのだそうです。
所長としてアウシュビッツに隣接した邸宅で暮らすルドルフは
命令を受け残酷な職務を無心にこなしていきます。
人の数をまるで物を数えるように『500』と発言したり、
犠牲になった人たちの灰に触れれば、まるで猛毒を浴びたかのように
焦り、念入りに洗浄をします。
根付いた差別心が見え隠れする場面です。
妻のヘートヴィヒは、犠牲者が略奪された金品や衣類などの持ち物を
平然と我が物として楽しんでいました。
彼女にとってその邸宅は自慢の家であり、ありあまる贅沢ができる
その生活は思い描いていた理想だったのです。
そんなへートヴィヒにとって
栄転が決まった夫について行くことはこの理想を捨てるのと同意であり、
子育てを理由にアウシュビッツに残るという決断ができる彼女はまさに
アウシュビッツの女王として君臨していたのでした。
そして残酷な音を消し去った両親の元に育つ子供たちにもまた
その副作用に毒された異変が起こっていました。
長男は犠牲者の歯で遊び、収容所の人がそうされるように弟を温室に閉じ込めて喜ぶなど
残虐さや痛みを知る気持ちが欠如していると言えます。
次男も叫び声や銃声といったアウシュビッツ発の音を
聞くべき『音』から排除している描写が垣間見れます。
赤ちゃんでさえその異様な環境にストレスを受け泣きぐずる毎日を過ごしているのです。
しかし赤ちゃんを除いては、人の苦痛や悲劇をまとった音は
彼らの日常と化してしまった現実が突き付けられていました。
リンゴの少女の善意
劇中に登場するアレクサンドリアという少女もまた実在のモデルが
存在していました。
劇中収容所へ自転車に乗ってリンゴを運ぶ少女がその人のモデルとなっています。
使用人として住み込んでいるポーランド人の少女は
夜になるとヘス家のリンゴを隠し持って自転車で収容所へ向かい、
そこで作業する人たちのために持参したリンゴを隠し置いてくるのでした。
そんな彼女の行動は幼い善意でした。
それでもその善意はまるで畑をあらす害獣のように
赤外線カメラで暗黒の出来事として映し出されるのです。
もしも見つかってしまえばそれはドイツ人側にとって
害獣にすぎないとでもいうように
少女の身に危険が及ぶことを表しているのかもしれません。
ところが少女が持参できるリンゴの数には限りがあり、
そんな小さな善意さえも収容所の中での争いを招いてしまう結果となりました。
ヘートヴィヒの母の手紙
へートヴィヒは母親を自慢の邸宅に招きました。
そして貧しかった母のかつての雇主が今や隣接している収容所に居る
ことを嬉しそうに話します。
母も娘の贅沢な暮らしを実感し満足気でした。
しかし夜になると、窓の外に見える赤い光、焼却炉から漂う煙や匂いを体感した母は
急遽、娘に挨拶することもなく置き手紙だけを残して帰ってしまいました。
へートヴィヒには普通のことだった隣の状況が
初めて経験する母親には耐えられなかったのでしょう。
窓の外から入って来るそれらが何の煙りで、何の匂いであるのか
一目瞭然だったからです。
母が残した置き手紙を読んだへートヴィヒは不満気でした。
その中身は明確になりませんでしたが
へートヴィヒの楽園をけなしたものだったのでしょう。
窓からの光や音や匂いの酷さは、
とてもじゃないけれど人間の暮らせる場所ではないと。
その環境の劣悪さに耐えきれず、逃げ出した母親には
その城を娘のように楽園だと感じることは不可能でした。
ラストの意味
再びアウシュビッツに復職をすることになったルドルフでしたが、
そんな朗報を妻に知らせた電話の後、吐き気に襲われます。
それはルドルフの本能が示した拒否反応なのかもしれません。
潜在意識の中では悪事という疑念が沸いたとしても
ルドルフには命令に背くという選択肢はないのです。
だとすれば無心になること、仕事だけをこなすこと、収容所に人々は
自分とは違う生き物であるという認識を強く持つこと。
それに徹したのかもしれません。
その結果、灰を恐れ、触れるのを嫌い、物のように数えた。
それでも人間としての心は奥底に残っていたのでしょう。
人として当然の生きる権利を身勝手に奪い続けることへの
嫌悪と拒否反応が表れた瞬間なのだと思いたいところです。
そんなルドルフの心境の合間に映るのは
現在の収容所の風景でした。
そこでは数えきれない数の遺品を前に、それに何かを感じるしぐさや視線を向けることなく
淡々と清掃の仕事をこなす人達の姿がありました。
それまでルドルフやヘートヴィヒへ向けた鑑賞者の嫌悪感が
自身にかえってくる恐怖の瞬間でした。
あなたはどうなの?・・・と。
世界の何かを変えられるほどの影響力は
自分になど皆無なのです。
それでも自分の手で持てる量でかまわないから
リンゴを届けたい・・・そんな気持ちになる一作です。