名著『白夜行』や直木賞を受賞した『容疑者Xの献身』などを手掛けた
言わずと知れたミステリー作家、東野圭吾氏の同名原作を重岡大毅主演で実写化した
『ある閉ざされた雪の山荘で』。
しかし本作のミステリーには2つの解釈が存在するのではないかと
思うのです。
そこで本記事では実写版で足された、原作にはないラストに着目して
解説、考察を綴っています。
『ある閉ざされた雪の山荘で』あらすじ
とあるペンションに招かれた劇団「水滸(すいこ)」の6人の役者
たちと、ただ1人、外部から来た役者の久我和幸。
そのペンションでは4日間の合宿を行う中で新作舞台の主演が選抜されるという
最終オーディションだった。
彼らに与えられたのは雪の降る山荘で外部との連絡が途絶える中で起こる惨劇
という設定だった。
演出家の東郷陣平によるルールはテーマにのっとり、
外部との連絡や敷地の外へ出てしまうと、即刻不合格になるというものだった。
2日目の夜、一人の役者が失踪する。
そしてまた一人・・・と事件は続いた。
これは脚本による演出なのか、それとも・・・
キャスト
重岡大毅、中条あやみ、岡山天音、西野七瀬、堀田真由、
戸塚純貴、森川葵、間宮祥太朗、大塚明夫 他
『ある閉ざされた雪の山荘で』はどこで見られる?
以下、原作内容及び結末までのネタバレを含みます。
未視聴の方はご注意ください。
本記事の情報は2025年5月時点のものです。
最新の配信状況は各サイトにてご確認くださいませ。
事件の真相とは
オーディションと称され山荘に集められたのは劇団『水許』に所属する
本多雄一、雨宮恭介、笠原温子、元村由梨江、田所義雄、中西貴子の6人と
外部から参加している久我和幸の計7人でした。
演出家の東郷は姿を現すことはなく、オーデションとなる劇の舞台は大雪が降る山荘、
そのため外部との連絡も閉ざされ身動きがとれないという設定を彼らに与えたのでした。
ためらいながらもペンションでの時を過ごす7人でしたが、
2日目、温子が失踪します。
東郷は温子が殺されたと告げ、その状況を彼らに伝えました。
犯人の正体
しかし、3日目には由梨江が撲殺されたと知らされ、
凶器となった花瓶に血痕が残っていたことから
残された役者たちは本当に事件が起こっているのではないか
と疑い始める。
部外者だという理由で一番に疑われた久我は
自身の疑いを晴らし真犯人を探るために
アリバイ作りやビデオ録画を利用した謎解きを始めました。
その後、雨宮までもが殺害され、
事件の隠された謎が浮かび上がってくるのです。
久我は録画したアリバイを証明するビデオに映っていなかった
本多が犯人であると断言しました。
すると本多は事件の真相を語り始めるのでした。
その山荘にはもうひとり存在していた
劇団水許にはかつて麻倉雅美という、もうひとりの女優が存在していました。
彼女は実力派にも関わらず、オーディションに落選してしまいました。
そのオーディションで雅美の役を得たのは実力はないものの
容姿が端麗で華がある由梨江だったのです。
それだけに落選のショックを隠し切れない雅美は
実家へと引きこもってしまいます。
そんな雅美を励ましに向かったのが、殺された
温子、由梨江、雨宮の3人でした。
しかし雅美にとって3人の来訪は傷口を広げることでしかなく、
由利江や温子に金を積んだり、演出家と関係を持って役を得たのだろうと
罵倒してもみ合いになってしまいました。
止めに入った雨宮に熱いお茶を浴びせてしまい一旦その場は落ち着き
3人は帰宅の途につきます。
しかしイライラのおさまらない温子は雅美に電話をかけ、
雅美が浴びせたお茶のせいで視力が危うくなった雨宮が
事故を起こしてしまったと嘘の内容を告げます。
驚きで路上に立ちすくしてしまった雅美は車に撥ねられ
下半身の身動きが出来なくなってしまい芝居自体を断念せざるを
えなくなってしまいました。
温子の嘘を知った雅美は、雅美の足になると言ってくれた本多に
3人への復讐を願ったのでした。
3人は生きていた
山荘の壁の一部がマジックミラーとなっており、
その中に身を潜めながら3人への復讐の様子をうかがっていた雅美。
しかしそこにはもう一つの物語が隠されていたのです。
雅美の気持ちは理解しつつも殺人を犯せば雅美自身も取り返しが
つかないことになると危惧する本多は、ある脚本を執筆するのでした。
脚本を温子、由梨江、雨宮に渡すと、3人に被害者の役を演じてもらって
いたのです。
よって殺人事件はフィクションであり、3人は生存していました。
隠れていた3人は雅美の前に現れ謝罪しました。
ところが復讐はフェイクだと知った雅美は自ら命を絶とうとします。
本多はそんな雅美に生きて欲しいと哀願し、
久我は役者を諦めようとした際、雅美の言葉に励まされて今の自分があるのだと
語り、その場にいた全ての仲間が雅美が生きて諦めずに前を向いてくれることを
強く願ったのです。
原作にはない救いの結末ともう一つの解釈
映画のラストでは、雅美に生きて欲しいと願う役者仲間の思いが伝わり
諦めない道を選んだ雅美。
そして久我はこの山荘での出来事を脚本に描き、
車椅子に乗った雅美を含む8人は舞台で共演を果たすというラストでした。
彼らの舞台『ある閉ざされた雪の山荘で』は大成功を果たし
観客からは惜しみない拍手が送られました。
そんな声援に答えカーテンコールで再度舞台へ姿を現す
8人で物語は締めくくられます。
原作にはなかった救いのラストになりました。
原作にはないラストに秘められたもう一つの物語
しかしそのラストは映画を見終わった観客を混乱させる材料にもなったのではないでしょうか。
山荘から舞台へ上がるまでの経緯が殆ど示されていなかったからです。
それゆえ、この結末は後日談か?ハッピーエンドか?どう受け取ればいいのか?
そんな疑問が浮かびませんでしたか?
筆者はこのラストが実写化に向けて施された
最後のどんでん返しだったのではないかと推察しています。
原作小説にはない久我脚本の舞台というラストに隠されたのは
映画独自の異なる物語だったのではないかと。
山荘での復讐劇はそれ自体が東郷先生の脚本であり、オーディションであった。
そしてそのオーディションで見事に主役の座を得たのは
麻倉雅美だったのではないでしょうか。
ラストの舞台は念願の雅美が主演の舞台、
つまり劇中劇だったのではないかと思うのです。
本作に存在する2つの解釈。
その一つは、復讐を企てた雅美が立ち直り仲間で作り上げる舞台に復帰する
というハッピーエンドの結末。
そしてもう一つは、物語の中で復讐劇は現実ではなく、山荘での出来事は
全てがオーディションであった。
よって最初から最後までが劇中劇だったという解釈です。
『閉ざされた雪の山荘で』感想
ミステリーを語るうえでははずせない東野圭吾さんですが、
本作は少し趣が違うようにも感じました。
筆者は『白夜行』に衝撃を受け、それ以降東野作品を注視しており
子どもを巻き込む不穏さや複雑で後味の悪さも圧巻を感じておりました。
ところが本作では誰一人命を落とすこともなく、
素直に受け取るならばハッピーエンドではないかという物語は
また新たな発見だと思ったのですが・・・
なんと本作の原作は30年以上前、『白夜行』よりも以前に書かれた
のだと知り衝撃を受けた次第です。
しかしながら、劇中での不穏な事件は皆無だったとしても
物語の中の現実はどれなのか?という難題に
惑わされるミステリーなのかもしれないと勘繰ってしまう一作でした。