『町田くんの世界』や『月』などを手掛けた石井裕也監督が
上海国際映画祭のプロジェクトの一環としてプロデュース、脚本、監督を務めた
『生きちゃった』。
高校時代からの親友である2人の男子と1人の女子が抱く
それぞれの複雑な感情と心の葛藤が導くものは・・・・。
人間関係の難しさを痛感する、現代を生きる多くの人に刺さる作品です。
本作を見終わった後、自身の人間関係や生きることについて
考えさせられること必至です。
そこで本記事では
結末はどうなるのか?
大島優子が演じる奈津美の衝撃
に着目して、ネタバレありで考察を綴っています。
『生きちゃった』あらすじ
映画『#生きちゃった』の公式twitterです。2020年秋に公開予定。コロナ禍で大変な状況が続いておりますので、公開時期は変動する可能性もございます。
— 映画『生きちゃった』公式 (@ikichatta_movie) May 13, 2020
皆様が安心して映画を観ていただける状況になることを願っておりますが、これから本作に関する情報を発信させていただきます。#石井裕也#仲野太賀 pic.twitter.com/yipPvqBwUj
厚久と武田、そして奈津美の3人は高校時代はいつも共に過ごしていた。
厚久と武田が購入したパピコの半分×2を
奈津美が食べていた。
彼らは30歳を迎え、厚久と奈津美は夫婦になっていた。
夫妻には5歳になる鈴という娘もおり、
静かながら満ち足りた生活を送っていると思っていた。
一方で厚久と武田は起業することを目標に、
外国語を学んでいた。
ある日、厚久は仕事中にめまいに襲われ早退することになる。
しかし帰宅した厚久が見たものは
愛する妻、奈津美の浮気現場だった・・・。
キャスト
中野太賀、大島優子、若葉竜也、毎熊克哉、嶋田久作、パク・ジョンボム、
北村有起哉、伊佐山ひろ子、鶴見辰吾、原日出子 他
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以下、結末のネタバレを含みます。
未視聴の方はご注意ください。
本記事の情報は2025年6月時点のものです。
最新の配信状況は各サイトにてご確認くださいませ。
結末をネタバレ解説
奈津美の浮気現場を目撃した厚久は扉のガラスをたたき割り
激高した感情を表すも、何も言わず家を飛び出してしまいます。
そのまま幼稚園に鈴を迎えに行った厚久は
帰宅すると眠ってしまいました。
その夜、結婚生活の5年間は愛されていると思えなくて、
ずっと寂しかったと
告白した奈津美は離婚を切り出しました。
そんな奈津美に対しても言葉が出てこない厚久は
離婚を受け入れ、親友の武田の元に転がり込みました。
沈黙は歪みを誘発する
実家を訪れた厚久は離婚を報告します。
両親は奈津美を悪く言ったり、慰めたりしますが、
兄の透は黙ったままでした。
そうして奈津美は浮気相手の洋介との同棲を始めます。
厚久は養育費などを奈津美に仕送りするため
語学の勉強も辞めざるをえませんでした。
ほどなくして透がアパートを訪ねると
部屋の中からは奈津美と鈴、そして知らない男性の声がしました。
買い物に出かけるために部屋から出て来た見知らぬ男性・洋介を
尾行した透は洋介の腕を掴み首を振るという仕草で
何とか気持ちを伝えようとするも洋介に殴られ蹴られたことで
逆上し、石の塊を拾うと洋介の頭をめがけて殴りかかりました。
さらにふらついた洋介に石で殴りかかり
洋介は帰らぬ人となってしまいます。
さらに降りかかる悲劇
半年後、奈津美の元に取り立て屋が訪れ
洋介は400万ほどの借金を抱えていたと言います。
書類上、その支払い義務が奈津美にあると言うのです。
借金返済のためデリヘルで働き始めた奈津美でしたが、
ある夜、奈津美を馬鹿な女だとののしる客に
殺害されてしまいました。
厚久と武田は奈津美の葬儀に参列しようと出向きますが、
奈津美の母は、それを許しませんでした。
さらに鈴のことは忘れるように迫ったのです。
大切なのは本心を伝えること
奈津美と対面することが許されずに会場を後にした
厚久と武田は奈津美が最後に居たホテルへと出向きます。
ベッドの上に高校時代のように、パピコを二つ捧げると、
武田は奈津美のことを愛していたのかと問います。
厚久は英語で本当に愛していたと自分の気持ちを言葉にしました。
武田は厚久を助手席に乗せると鈴の住む奈津美の実家へ走らせます。
そこには庭で大きな白い犬と戯れる鈴の姿がありました。
そのまま車は通りすぎ、鈴は庭もあって犬も居る家庭で過ごす方が
幸せになれるのだと泣きました。
そんな厚久に武田は鈴と暮らしたいという本当の気持ちを告げることが
何より大切なんだと説得します。
厚久は武田が見守る中、本当の気持ちを告げるために
鈴の元へ走って行きました。
大島優子が見せる衝撃!
大島優子が演じた奈津美は一見、酷い女性でした。
厚久に対し、裏切り行為をして、それを隠せず、
そのうえで一方的な別れを切り出し、厚久をアパートから追い出し、
養育費を請求したのです。
しかしその行動の裏に潜むのは奈津美の痛みだったのかもしれません。
愛を乞う人
奈津美にとって大変な最中に助けてくれたのは厚久でした。
厚久は婚約中の身だったにも関わらずそれを破棄してまで
奈津美との結婚を選びました。
その厚久の行動こそが愛故のものだと確信できた奈津美の心は
満たされていたのでしょう。
しかし妊娠中の奈津美は厚久の元を訪れるかつての婚約者と再会
することになります。
奈津美が語れなったこと
本作の英題は
All the Things We Never Said
これは
『私たちが決して語らなかったすべてのこと』
というような意味合いになります。
厚久は自身の気持ちを語ることが大の苦手でした。
しかし奈津美もまた語らなかったことがあったのです。
早智子が現れた衝撃は奈津美にとって恐怖でもあったのではないでしょうか。
さらに座っている早智子の傍らに厚久が居て、
彼は号泣して謝っているのです。
何事が起こっているのか知りたいのは必然で、
未解決のままでは一時も心が休まることはないと思うのです。
それでもそこを掘り下げれば、この恋は終わってしまうかもしれない。
そんな恐怖が奈津美の口を塞いでしまったのでしょう。
しかしそのことが奈津美が不信感を抱く原因となり、
夫妻の破滅の始まりへと展開してしまったのです。
狂気をまとう最後の叫び
本作のラストシーンは壮絶ながら心を打たれる場面として
刻まれて行きますが、印象的な場面として
奈津美が最後に見せた狂気をもまとった絶叫も
多くの方が衝撃を受けたのではないでしょうか。
厚久との別れも、洋介の喪失も、借金の肩代わりが発覚した時も
冷静に静かに言葉を並べた奈津美でしたが、
凶器の数々を見て、それを握って近づく男を見て、
生きることへの執着が湧き出してくるのです。
最後の時を確信しながら、何を思い、何を悲しんだのか。
鈴はどうなるのか?
それは一番の心残りだったに違いないのです。
しかし筆者はもしかしたら最後に浮かんだ顔は
厚久だったのではないかと思ってしまいました。
厚久からの愛情は本物だったと心のどこかでは気づいていても
早智子が現れた日を境に変わってしまった厚久。
奈津美が欲したのは厚久の、他の誰かを傷つけたとしても奈津美と生きるという覚悟を
見たかったのではないでしょうか。
浮気がばれて厚久をどん底に突き落として別れた奈津美は
洋介と生きるという強い覚悟を自ら示したのです。
厚久を傷つけてまで手に入れた幸せを
むやみに捨てることなどで出来なかったのでしょう。
それ故の自己犠牲であり、それも奈津美の愛情なのです。
奈津美は自分の覚悟や犠牲を厚久にも求めていたのではないでしょうか。
奈津美の実家はお庭や大型犬など裕福な環境が示唆されていました。
それでも実家を頼らず自らを犠牲にした奈津美の本心は
思うような愛情を見せてくれなかった厚久への皮肉だったのかもしれません。
『生きちゃった』人生のリアル
本作は衝撃的な事件が勃発し、
それまで確かにそこにあったものさえ崩れ落ちて行きます。
それはフィクションだとしても、3人の
本音を言えずに寡黙化したり、
苦悩を秘めているのに毅然とふるまったり、
そういう複雑な感情を抱える特徴は、
今この世界に生きている多くの人たちが抱えるリアルではないでしょうか。
人の心を直接見ることは出来ないからこそ
言葉だけが頼りの人間関係。
しかしその言葉選びを間違ってしまうと
悲惨なことにもなり兼ねないので
筆者も度々本音はしまってしまうのです。
厚久は婚約者であった早智子と別れてまで奈津美との生活を
選びました。
しかし鈴を懐妊した直後に早智子の苦悩を暴露され、
不幸せを感じているような彼女に対して
自分の責任だという罪の意識をもってしまいました。
それからの生活では、早智子のことを考えると
自分たちだけが明るく幸せであることに負い目を感じ
それが奈津美への言葉の不足、愛情の欠如として
奈津美を苦しめたのです。
それでも奈津美と鈴への愛情は静かに存在していた厚久にとって
奈津美の裏切りはショックであったに違いないのに、
ガラスに思いを託しただけで、言葉で自分の感情を表すことは
ありませんでした。
早智子の件も、奈津美の浮気も自分自身の責任だという
優しさと自己肯定感低さ。
そんな厚久がならざるを得なかった寡黙が導いたのは悲劇と不幸でした。
最悪な状況を招き、鈴とも会えなくなると理解して、
武田の力強い本音の言葉を浴びてやっと厚久は
生きちゃったのかもしれません。
本音を言わない方が良い時というのも存在するのだと思います。
しかし、ここぞという時に言葉を失くしては伝わらないことは
確実にあるということなのでしょう。
結局、厚久が感情を抑え込んだ原因は何だったのでしょうか。
思う道に進めなかった厚久は人生の厳しさを知ったのでしょう。
傷ついた経験のある彼は人の痛みにも敏感だったのでしょう。
そんな優しくて、でも人として弱さを併せ持つ彼もまた
この社会は生きづらいのかもしれません。
それでも生きちゃっている限り立ち向かうべきだという
メッセージを感じました。