『危険なメソッド』や『スキャナーズ』などを手掛ける鬼才デヴィッド・クローネンバーグ
を父親に持つブランドン・クローネンバーグ監督のサスペンス・スリラー
『インフィニティプール』
御父上の代表作はなかなか過激描写が多く万人受けが困難かもしれません。
そしてご子息であるブランドン氏による本作ももれなく
万人受けが難しいかもしれませんwww
エログロ満載映画なので閲覧注意作品となっていました!
そんな本作ですが、謎が謎のまま結末が訪れるので、
その解を自分流に考えるのが楽しい作品でもあります。
そこで本記事では筆者の推察を綴っていきたいと思います。
よろしければお付き合いくださいませ。
『インフィニティプール』あらすじ
━━━━𝘾𝙊𝙈𝙈𝙀𝙉𝙏🎭
— 映画『インフィニティ・プール』絶賛公開中 (@infinitypool_jp) March 26, 2024
「ゾゾゾ」「フェイクドキュメンタリーQ」を手掛ける皆口大地さん@minaguchiopよりコメントが到着🍸#インフィニティ・プール
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とある高級リゾート地リ・トルカ島で休暇を楽しむ
ジェームズとエム夫妻。
夫のジェームズはスランプ中の作家で、何年も新作を書けないでいた。
そんなことからインスピレーションを得るためにリゾートを訪れていたのだった。
妻のエムの父親は出版社の取締役だったので、
小説が書けなくとも彼女のお金で暮らすことが出来ていた。
ある時、ホテル内でジェームズの作品のファンだという
ガビと名乗る女性と出会う。
それをきっかけにジェームズ夫妻とガビと彼女のパートナー・アルバン
の4人で一緒に食事をすることになった。
このホテルの宿泊者は治安上の理由から敷地外へ出ることは禁止されていたが
意気投合したガビたちに誘われたジェームズ夫妻は
ホテルの敷地外へとドライブすることになったのだった。
しかしドライブの帰りに思わぬ出来事が起こってしまう・・・。
キャスト
アレクサンダー・スカルスガルド、ミア・ゴス、クレオパトラ・コールマン、
ジャリル・レスペール、トーマス・クレッチマン 他
以下、結末までのネタバレを含みます。
未視聴の方はご注意ください。
本記事の情報は2025年4月時点のものです。
最新の配信状況は各サイトにてご確認くださいませ。
『インフィニティプール』の結末・ジェームズの運命は‽!
エムが気乗りしないなか、ジェームズは自身のファンだというガビの存在に
喜びを隠せず、誘われるままにホテルの敷地外へとドライブに出かけました。
その帰り道、皆が酔いしれる中、運転を担ったジェームズは交通事故を起こしてしまいます。
人を轢いてしまったジェームズは通報しようと試みますが
ガビやアルバンはこの国の警察に捕まれば明日までに命はない
と言い、その場はそのまま立ち去ることを提案しました。
ジェームズはそれを受け入れ部屋に戻りますが翌朝
警察がやって来て連行されて行きました。
昨夜に轢いてしまったのは地元の住民で、すでに亡くなったと言います。
どんな理由でも犯罪を犯せば極刑になるというその島で
ジェームズもまた例外ではありませんでした。
しかしこの島には外国人観光客に適用される救済法があると言うのです。
その内容は、多額の費用をもって自身と同じ記憶を持つクローンを作成し、
そのクローンを身代わりにして罪を償わせることができるというものでした。
妻の資産を使ってその司法制度を利用し、
遺族に処刑される自身のクローンの姿を目撃させられた夫妻でした。
エムがドン引きしているのに対し、何故か興奮気味のジェームズでした。
すぐさま出国したいエムに、『パスポートを失くした』とウソをつきます。
それからというもの、実はその司法制度をとっくに体験していたガビ夫妻や友人たち
に囲まれ、彼らに導かれるままに次なる犯罪へと手を染めていくジェームズでした。
そんな夫の異変に我慢が出来なくなったエムは一人で帰国してしまいます。
それでもジェームズは妻ではなくガビたちとの危険な遊びに
酔いしれるように犯罪を繰り返しました。
そうしたある日、いつものようにターゲットに暴行をはたらくジェームズは
その相手が自身のクローンであることに気づきます。
自分で自分を痛めつけるその光景を目の当たりにして初めて恐れをなしたジェームズは
隠してあったパスポートを手に取り逃げるようにホテルを脱出しようとします。
しかしジェームズが乗ったバスをガビたちが追跡し、
ジェームズは怪我を追って逃げ場を失ってしまいます。
するとガビが鎖で繋がれたクローンのジェームズを引き連れて
ジェームズに、抹殺するように命じます。
クローンジェームズを自ら抹殺することで変身が完了し晴れて仲間になれる
と言うのです。
そんな申し出に拒否を示していたジェームズでしたが鎖に繋がれたクローンは
獣のようにジェームズに襲いかかって来たため
反射的に殴り続けて命を奪ってしまいました。
変身が完了したジェームズを優しく包み込むガビでした。
ガビたちやジェームズのバカンスは終わりを告げ
また来年会おう
と皆にこやかに日常へ戻るべく帰国して行きました。
しかしジェームズだけが飛行機に乗らず、
雨にさらされ休館になったホテルへと戻り
たった一人きりで海を眺めながら座っているのでした。
『インフィニティプール』3つの謎
本作の謎を皆さまは解けましたか?
なかなか難解だった回収されなかった謎を推察してみました。
①結末のジェームズはオリジナルか?
本作の鑑賞者が最も気になる謎が、ラストでホテルに残る(住みつく?)ジェームズは
オリジナルか?クローンか?ということなのではないでしょうか。
筆者的には結末のジェームズはクローンなのではないか
と思っています。
もっと言えば、ガビやその仲間たちもクローンと入れ替わっており、
最後にガビがジェイムズとジェイムズを戦わせ変身を完了させ仲間になる
という意味がこれにかかってきているのではないでしょうか。
ガビたちはクローンであり、ジェイムズクローンもオリジナルを倒して
仲間になりましょう・・・と。
途中、幻覚剤を投与して乱れた場面のジェームズがそのまま
鎖に繋がれたのではないかな?と推察しています。
ともすれば、ガビたちが作らせたクローンこそが
実は最後に残ることになるジェイムズなのではないかと思います。
しかしながら実際は、どこまでのジェームズがオリジナルで
どこからがクローンで、鎖に繋がれたのはどっちなのか?
といったことは謎であるというのが正解なのかもしれません。
同じ記憶を持ち、同じ見た目の人間は
本人たちでさえもどっちがオリジナルなのかということが
謎であるということなのでしょう。
②ジェームズが帰国しない謎
最初にパスポートを失くしたという嘘で帰国を阻止したのは
その島での初体験が小説のネタになると確信したからでしょう。
しかし結末の帰国しなかったジェームズは
実はクローンだったからというのが一つの理由なのではないかと思っています
ジェームズ夫妻は仲が良いようで実は仮面夫婦だったのではないでしょうか。
書けない作家であったジェームズには資金が必要でした。
そしてエムは父親に反抗するべく売れない作家という父親が嫌いそうな
相手を選んだのだと言っていました。
そんな思惑で結ばれた表面状の夫婦だったジェームズ夫妻。
ラストで妻に帰国の連絡をしたものの、そこに真の愛情がなかったという記憶が
引き継がれたクローンにとって帰りたい場所ではなかったのです。
そしてもう一つの理由はジェームズが現実を知ってしまったからなのでしょう。
ガビたちとジェイムズは本当の意味で仲間にはなれないということ、
そして何より彼らの真似事をした結果、自分とは何か?を見失ってしまった現実を。
あんな衝撃的な体験、身勝手な犯罪を繰り返しておきながら、
帰国するバスの中で、ガビたちはまるで何事もなかったように
ごく普通の観光客のような会話を交わします。
帰国したら何をするのか?
仕事に明け暮れる夫に、部屋の模様替えをする妻。
また来年も来ようよ・・・と。
富裕層であるガビたちの現実は元の日常にあり、1年に一度だけ悪い夢を見るに過ぎなかったのです。
しかしジェイムズには元の日常など存在しないと言っても過言ではありません。
書けなければ職なしも同然なのです。
お金がなければガビたちのように来年もまたその島に訪れることもできないのです。
そんな自分は一体何者なのだろうか?
小説を書くことさえ忘れかけているのかもしれません。
その答えが判明するまで何者でもないジェームズがそこから出ることは
ないのでしょう。
③本作のテーマは何?
本作を通じて感じ取れることは見る人によって様々なように
監督自身も自由に解釈して欲しいというご意向のようです。
また、インタビューでアイデンティティや正義や罰などに関して
監督の考えを探求する物語だと話されていました。
劇中で罪を犯すのは日常では建築家などのきちんとした仕事を持する人たちでした。
れっきとした社会人であり立派な人材というイメージを持たれる人たち。
しかし裕福な観光客である彼らにとっての無法地帯である島に降り立つと
そのイメージは一変し、まるでゲームセンターで遊ぶように
日常の鬱憤をお金と引き換えに命で解消しているのです。
富裕層は人間として生きることが認められ
そうでなければ生きることも自身では決められないとでもいうように。
そんな彼らが罪を繰り返すのは、極刑に値するような罪悪感を
自分のクローンに背負わせるからです。
自分にそっくりな見た目と同じ記憶、同じ罪悪感を持ち合わせた
身代わりを持って罪を償う彼らの、本当の罪悪感はどこへ行くのでしょうか。
自身のクローンが処刑される瞬間を目撃しなければならないという制約は、
そのショッキングな場面を目に焼き付けてどうか改心して欲しいと願う故なのかも
しれません。
しかし実際は目撃するからこそクローンと共に本人の罪悪感も消えてなくなるのです。
だとしたらそれは罰といえるのか?
人の行いとして責任の取り方が正しいといえるのか?
お金で命の重さをはかることがまかり通ってしまう世界の行く末は
恐ろしくおぞましいものになることは想像に容易すいものです。
真の裕福組ではないジェームズは最初こそ人を撥ねてしまった
恐怖に怯え罪悪感にさいなまれるも、
その非日常な経験はエムに頼らなければ生きられない日常の自分からの
脱却を意味し、それは彼にとって至極心地よい快楽と化していったのでした。
もう罪の意識も罪悪感も感じることはありません。
究極を言ってしまえば、それは人であるといえるのか?
堕ちて行くジェームズに失望する鑑賞者は、同じ地位、同じ立場、同じ財産を持とう
とも自分なら絶対にゆるがないと言い切れるのか?
そんな問いかけを投げかけてきます。
『インフィニティプール』感想
ガビのご一行様が犯行時に被る不気味な仮面が
怖かったですね。
まるでフェスティバルにでも参加するように仮面を選び、
これから罪を犯すけれどそれは自分の罪とはならないことを
その仮面が示しているかのようでもあり。
元々は人間であったかのようなその表情は
まるでガビたちの実態を表しているようでもあり。
そもそもその仮面は何故あのようなデザインなのか?
クローンの作成との関連性はあるのでしょうか?
本作はSFホラーで現実味にかけるものかもしれません。
しかし日頃、旅先ではついつい羽目を外してしまうというような
ことは現実的なのではないでしょうか?
その羽目が大きく膨らみ取返しのつかない事態になったガビたちは
観光地を自身の鬱憤の破棄捨て場として扱い、
そこに住まう命に敬意を払わないのです。
そのように人間の誰もに関係のある小さな問題が
このまま段々と肥大化していけば人類にとって
取返しのつかない事態に発展してしまう可能性がある・・・
という現代の人類に対する警鐘が響いている気がしました。
自分のクローンが存在したらどんなだろうか?
と考えてしまうような作品ですね。
実際に自分と同じ見た目の同じ記憶を持つ人物が
存在したとしたら、周りの人に、自分こそがオリジナルなのだと
証明することはできるのでしょうか?
きっとそれは容易ではないし、出来ない可能性すら秘めていることを
思えばやはりクローンは作るべきではないということなのかもしれません。
一方でもしもクローンが身近なものになったとしたら、
罪を擦り付けて責任をとってもらうというようなことはないとしても、
面倒な案件は代わりに行ってもらうなど小さなことから
人のダメな部分は露呈してしまうのではないかという恐怖が垣間見れました。
エロ、グロ満載で、人と見るにはちょっと気まずい。
でも語り合わずにはいられない、そんな一作でした。