2024年に公開の『夜明けのすべて』は、『そして、バトンは渡された』などの著者、
瀬尾まいこ氏の同名小説を
松村北斗(SixTONES)と上白石萌音主演で映画化された作品です。
ありふれた日常の中で
〖生きづらさ〗
を抱える山添孝俊と藤沢美紗。
けれどもこの2人の生きづらさでさえも
同じとは言えない。
そんな重しを抱えながら生きる全ての人へ
本作が込めたメッセージとは何なのか?
ネタバレ解説、考察しています。
この記事のポイント
・優しさと激励の結末
・生きづらさを乗り越えるヒント
『夜明けのすべて』あらすじ
✶˚‧ ⊹ 映画『#夜明けのすべて』⊹ ‧˚✶
— 映画『夜明けのすべて』大ヒット上映中 (@yoakenosubete) October 4, 2023
┄┄ ポスタービジュアル 解禁 ┄┄
思うようにいかない毎日。
それでも私たちは救いあえる。
恋人や友達でもない特別な関係。
そんな二人に柔らかな光が差し込む瞬間を📷
𝟮𝟬𝟮𝟰.𝟮.𝟵 (𝗙𝗥𝗜) pic.twitter.com/5fejhzj4HU
大手企業に就職し、2か月が経つ藤沢美紗は、
穏やかで気配りもできる優しいOL。
しかし月に1度やってくるPMS(月経前症候群)の際だけは、
イライラを爆発させ周りの人たちを困惑させてしまう。
これではいけないと、強めの薬を服用してみたが、
その副作用は眠気を誘い、社内の会議室で寝ているところを入って来た
同僚や上司に目撃されてしまう。
恥ずかしさのあまり、その当日に辞表を出したのだった。
そうして美紗は栗田科学という小規模の会社に再就職した。
同様に大手企業から転職して来た山添孝俊。
ある日、炭酸飲料の蓋を開けた山添は、
PMSに襲われた美紗にその音は勘にさわると激怒されてしまうが、
理解のある同僚たちがそれを収める。
実は山添もまた、就職後にパニック障害を発症したため、
その後電車に乗ることや美容院へ出向くこともできずに、
転職を余儀なくされていたのだった・・・。
キャスト
松村北斗、上白石萌音、渋川清彦、芋生悠、藤間爽子、
久保田磨希、丘みつ子、りょう、光石研 他
『夜明けにすべて』は何処で見られる?
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未視聴の方はご注意ください。
本記事の情報は2024年9月時点のものです。
最新の配信状況は各サイトにてご確認くださいませ。
優しさと激励の結末
孝俊と美紗は共に大手企業に就職し、これからという時に、
パニック障害とPMSに邪魔されて、
退職という道を選び、栗田科学へやってきました。
そんな2人は互いに苦手意識をもっていましたが、
お互いの抱えるものを理解し、歩み寄ることで
最強の同志となっていったのです。
2人で手掛けた移動式プラネタリウムのイベントを
最高のものにするために掘り起こしたのは
栗田社長の亡き弟が残した宇宙の秘密という遺産。
イベントはそんな栗田社長の弟と、孝俊と美紗の
思いのこもった響く内容になり大成功の幕引きとなりました。
そうして美紗は、身体が不自由になってしまった母親の介護のため、
栗田科学を退社し、実家付近の会社に再就職して行きました。
孝俊は元上司の辻本に大手企業に復帰できるように打診していましたが、
栗田科学で見つけた自分にできることとやりがいを胸に、
元居た大手企業に復帰しない決意を固めました。
そんな美紗の不在になった栗田科学では、今日も
穏やかな1日が流れていくのでした・・・。
美紗がお菓子を配っていた理由
PMSになるといつもの優しく周囲に気遣う美紗は不在になり、
突然怒りだし、罵倒する美紗に豹変してしまいます。
そんな自分を責め、周りへかけた迷惑に心を痛める美紗は
同僚や上司に度々お菓子を購入していきます。
その行動こそ、美紗の自責の念であり、
それを払拭するためのものが会社の人たちへ送るお菓子なのです。
通常の優しく気遣いができる美紗は、
一瞬のブラック美紗によって消えさってしまうのです。
悪い印象は払拭するのが困難なのです。
それを理解する美紗は、
社内に居場所が無くなるのではないかという不安にさいなまれ、
お詫びの品を配るという過剰な行為によって、
あれは特別なことだったと自身も周りにも納得して欲しいのです。
そうすることで会社の一員であることを認識して欲しいと同時に
自分自身も存在意義を見出そうとしていたのではないでしょうか。
ところが、栗田科学の先輩社員はそんな美紗に心が痛んで、
美紗が持って来た大福は美味しい、と付け加えながらも
〖それがルールになってはいけない〗
からそんなことは不要だと諭しました。
美紗が見返りが欲しかったり、感謝の言葉が聞きたくて
している行為ではないことがわかっているからこその
アドバイスだったのではないでしょうか。
孝俊が買って来たたい焼き
一方で、職場でお菓子などを配る行為を敬遠していた孝俊が、
物語が進んでいくにつれて職場の同僚たちに
たい焼きを買っていったり、自身がコンビニに行くついでに
同僚の買い物も請け負おうとする行動の意味は、
美紗のそれとは少し異なるのです。
だからこそ、社長や美紗を諭した先輩も笑顔で食べられるのでしょう。
それでも、美紗の見返りや感謝を期待しない
心からの贈り物であるという意味では、
孝俊は美紗に影響され、美紗の良い部分を受け継いだとも
言える兆候ではないでしょうか。
そして同時にそのことは
美紗が確かに栗田科学の一員であった
ことの証として残るのです。
生きづらさを乗り越えるヒント
日本は特に個人で武器を所有することは許されていないので
海外から見たら比較的平和な国だというイメージが強いのかも
しれません。
しかしながらそんな平和な国の国民は、
〖生きづらい〗
という人が多数存在するのも周知の事実ではないでしょうか。
そしてその原因の一つには心の平和が保てない社会だから
なのだと思うのです。
人の善意こそがカギになる
本作では大企業で仕事で貢献できるはずの自分が
いながら、突如襲ってきたパニック障害によって、
通勤することさえ難しくなった孝俊の姿が描かれます。
恋人や同僚は気にかけてくれますが、
第一線を行く彼らにも生活があり、
絶好調な彼らに本当の意味で孝俊の辛さを理解
するということはとても困難なのです。
劇中では、孝俊の神経内科への通院にも付き添い、
いつまで治療をすれば治るのか?と苛立ちを見せていた
恋人の存在がありました。
しかし彼女自身がロンドンへの転勤が決まったことで、
孝俊との別れを選択するのです。
元々精神疾患を患ったことを機に自ら人間関係を整理して、
なるべく他人とも家族とも関わらないようにしているように
みえた孝俊はどんどん孤独になっていくかのように思われました。
それでも孝俊がそんな辛さを乗り越えて
自分の道を進んでいくことを選択できたのは、
美紗であり、栗田であり、辻本という、
孝俊を支え続ける存在があったからに他なりません。
また一方的に助けていたと思われるような
栗田や辻本もまた救われるという思いを受け取っているのです。
それは、孝俊や美紗がプラネタリウムイベントのために
掘り起こした栗田の弟の残したもの。
それを世に送り出し、弟が確かに生きた証を示してくれたのは
自らが支えてきた社員の存在です。
辻本もまた、退職を余儀なくされた孝俊を気遣い
定期的に連絡を取り合う中で、
孝俊が最終的には栗田科学でやりがいを見つけた
という結果は、辻本の傷みも拭うのです。
孝俊自身も辛い立場でありながら、美紗を助けたいと思う気持ちから
PMSという重荷について理解し救おうとする姿勢が描かれたように、
人はみんな、どんな重荷を背負おうとも、
誰かに助けられたり、助けたりすることは可能なのだと、
そんな風にして、善意と善意が支え合って生きていくことで
生まれる心の平和と回る社会。
そんな心の平和な世界で生きていくことができれば
〖生きづらさ〗はそれほど気にならないのでは
ないでしょうか。
『夜明けのすべて』感想
筆者ももれなく『生きづらい』民です(笑)。
生理とひとくちに言っても
普段と何ら変わらない面倒なだけだという人も居れば、
救急車を呼ぼうかと思ったほど顔面蒼白になって倒れこむ人も
存在します。
けれども生理にまつわることに限定すれば、
『たかが生理』と称される場面を多々目撃してきました。
その『たかが生理』が重い女性は社会の中で
毎月辛いだろうなぁと危惧してしまいます。
またPMSに襲われると劇中の美紗のように、
人格が豹変すると言っても過言ではありません。
そうなれば陰口をたたかれるのは必至かもしれない。
考えるだけで、生理という一つをとっても
大変で生きづらいと感じる人は確かに存在するのですよね。
見た目にその大変さが伝わらない疾患も
誤解をされやすく辛い思いをしがちです。
そんな日常とは裏腹に本作では
心の綺麗な善意の人が多数登場するのが
見ていて温かい気持ちになりました。
そんな善意の人たちが至極幸せで心に余裕があるのかと
言えば、そうではなく、自身もまた心の痛みを抱えているから
こそ他人の痛みも受け止めることができるという構図に
なっていました。
筆者は今、まさに社会から絶賛孤立中で(笑)
それでもここまでくるまでに
筆者に向けられた善意は必ず存在していた訳です。
最近は、今の自分にできること、可能な範囲で行うことを
大切にしています。
そんな心もとない自分にももしかしたら誰かの助けになれる
そんな日が来たらいいのにな
という希望をもたせてくれる感謝の一作でした。