橋爪 駿輝氏の同名小説を北村匠海、中川大志のW主演で実写映画化した
青春群像劇『スクロール』
今をときめく2大俳優と、松岡茉優、古川琴音という旬の女優が出演していながら
その内容はどんよりと暗い本作。
そんな漂う絶望感の結末はどんなものになるのか?
ネタバレ考察、感想を綴っています。
『スクロール』あらすじ
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— 映画『スクロール』公式 (@scroll_movie) October 17, 2022
『#スクロール』
第一弾ビジュアル解禁
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[生きること。
愛すること。]
撮影監督 #川上智之 による#北村匠海 #中川大志 の撮り下ろしカットを使用📸 pic.twitter.com/e5SiXxdLwc
社会人としてなんとなく生きる日々を送る『僕』を悩ますのは
パワハラ上司コダマの存在だった。
こんな毎日が続くならばいっそうのこと消えてしまいたくなる。
そんな衝動をどうにか押さえつけるべく、僕はSNS上に思いのたけを
吐き出して何とか明日を迎えていた。
本人には決して言うことが出来ないがコダマには、まじ消えて欲しいと
SNS上に投稿し、節に願ってもいた。
ある日、屋上に上がった僕は不意に自身の飛び降りる姿を想像する。
そんな時、一本の着信があった。
その相手は大学時代の友人ユウスケだった。
ユウスケは僕に、同じく大学時代の知り合いだった『森』の訃報を伝えて来た。
その件で、僕に頼み事があると言う。
一方、僕の鬱憤が放たれた投稿に、一人の【いいね】がついていた。
そんな最中、僕が職場へ足を踏み入れると、何やら穏やかでない雰囲気が
漂っていた。
同僚の女性が、コダマに向かって
『まじ死んでほしい』と呟いたのだ・・・。
キャスト
北村匠海、中川大志、松岡茉優、古川琴音、水橋研二、莉子、
MEGUMI、三河悠冴、金子ノブアキ、忍成修吾、相田翔子 他
以下、結末までのネタバレを含みます。
未視聴の方はご注意ください。
本記事の情報は2025年4月時点のものです。
最新の配信状況は各サイトにてご確認くださいませ。
今を生きる若者たちの絶望
この物語は生きるという鬱屈を抱えながら今を歩く
4人の若者に焦点をあてています。
それぞれ誇張されたキャラにはなっていますが、
もしかしたら日頃抱えている自身の苦悩に通じるものが
垣間見えるかもしれませんね。
生きることを諦めた僕
やりたいこととは言えない仕事に従事する僕。
しかしそんな僕の日々は、パワハラ上司のコダマによって
生きる気力を侵食されていく日々になっていました。
こんな辛い日々を終わらせたくて
自身がこの世界から消えるという妄想を繰り返すのです。
しかしそんな彼を何とか思いとどまらせていたのは、
SNSへの書き込みと封を開けられない母からの手紙でした。
言えないコダマへの暴言をネット上に吐き、心の浄化を試みる毎日でした。
そして封を切っていないが大切にしまっている母からの手紙もまた
最後の砦になっていたような気がします。
そんな僕の心の叫びにある日一つの『いいね』がつきました。
そしてコダマに向かって、まさに言いたかった暴言を代わりに言ってくれた
存在を見つけたのでした。
一方で大学時代の友人ユウスケからの久しぶりの着信が
同じ大学時代の知人である森の訃報を告げました。
コダマに同じ思いをぶつけた同僚と
この世界で自分と同じように絶望にかられのみ込まれてしまった友人。
その存在が僕を少しずつ変えていくのでした。
混迷するユウスケ
一見、陽キャで高いコミュ力を持ち、
難なく毎日をこなしているように見えるユウスケ。
しかし上司は言います。
『そんなんで生きている意味はあるのか?』と。
ユウスケ自身、生きている意味などわからないのです。
そんなユウスケにおとずれた大学時代の友人、森の死。
森という人物が友人であるということさえ忘れていたユウスケは
森からの生前の着信を無視してしまったのです。
それは森からの最後のSOSだったのかもしれない。
だとしたら電話に応答していたら、森の未来は変わった可能性もある。
そんな罪悪感からか初めて自分が主導する企画に森の事件を
選択したユウスケなのでした。
生きる意味をみつけたい
という焦りに似た衝動は、隣に座っていた菜穂に
結婚を申し込んでしまうのでした。
菜穂の虚像
幸せになりたいという強い願望を持つ菜穂でしたが、
その幸せを導いてくれる誰かに依存したものでした。
そうなると菜穂の未来には見えない不安がよぎるのです。
区役所に勤めている菜穂は、満席のバーに入って来るなり悪態をつく
コダマの対応もそつなくこなします。
そんな人当たりの良さがユウスケの弱さを浮き彫りにさせたのかもしれません。
生きる意味を見つけたら『結婚してほしい』と言わせるのです。
そんなユウスケの願いを受け入れた微笑ましく映る場面。
しかし、ユウスケが思っていた以上に菜穂にとって
その言葉の意味は重かったのです。
『幸せにしてくれる人』を見つけマイホームや家族を得ることこそが
自分の生きる目的だった菜穂。
その実現のために、幸せにしてくれる人を見つけるためのキャラ像と笑顔を
を演じていたのではないでしょうか。
職場で結婚が決まった同僚に思わず『自分も結婚する』と露呈した
ことから菜穂の結婚話は職場全体に広まっていきました。
しかし実際はというと、幸せを運ぶ王子さまであるユウスケとは音信不通状態が続き、
その距離は結婚へ進むどころか開いていっている状態でした。
そんな焦りから、ユウスケの家に押しかけ問い詰めると、
菜穂の気持ちが『重い』のだと告げられてしまいます。
この結婚は白紙になることを察知した菜穂は仕事中のユウスケに
自殺をほのめかしたメールを送り付け、ユウスケがかけつけると
包丁を振り回した挙句、その刃はユウスケへと向いてしまったのです。
幸いユウスケは腹部に新聞を挟んでおり、その傷は大事には至りませんでした。
ユウスケは自分を泣きながら謝りながら抱える菜穂に、
悪いのは全て自分の方だと謝罪をするのでした。
強さの中に孤独を宿した私
『私』は登場人物中、最も強い意志の持ち主であると言えます。
しかしその強さもまた私の一面に過ぎないと言えるのかもしれません。
いつ死が訪れるかわからないからやりたいことはやっておかないと・・・
と考えるのは裏を返せば、その時が訪れる時、
自分の人生は最高だったと言える自信が今はないということ。
そんな現状と終わりが来ることの怖さと焦りを感じていると推察できます。
そんな彼女は、僕のSNSを見て、生きることに苦悩しているのは
自分だけではないことを知ります。
僕の葛藤や弱さもまた私の一面だったのかもしれません。
それを僕にも分かって欲しくて吐いたコダマへの暴言だったのではないでしょうか。
そして私もまた僕のことをもっと知りたいと思わずにはいられませんでした。
『スクロール』絶望からの結末と感想
最終的にはコダマにNOを突き付けた僕。
当然、それを聞いたコダマは怒り心頭で、
僕を殴り飛ばし、挑発を繰り返しました。
その一件でパワハラ上司のコダマは会社をクビになってしまいました。
絶望に満ちた僕の結末には光が差し込んで見えました。
森の訃報を知らせるユウスケの電話で、僕の命は救われ、
私という存在に触発された僕は、生きることへの希望を見出すことができたからです。
社会が僕に何をしてくれたかではなく、僕が社会に何をしたのかが大切
だという生きるヒントを見つけたこと。
そしてコダマへ突き付けたNOは、これからパワハラ被害にあうかもしれない
誰かのために行動にでたといえます。
それは同時に何も出来ずに消えて行くしかなかった
森とあの時屋上から飛び降りた妄想の僕への弔いとも言えるのではないでしょうか。
本当は死ぬべきは妄想の僕や森ではなく、
パワハラという非情な行為なのだと。
するべきことをして自らも会社を去った僕の人生は
ここから本当に始まるのかもしれません。
かつて人生を諦めていた僕が描いた
『絶望のモボ』。
自分を消してしまった森は僕でもありました。
そして会社をクビになり自暴自棄になったコダマの中にも
僕は存在していたのでした。
僕とは異種に見えたユウスケの中にも僕は居るのかもしれません。
生きづらいとか自分は何者なのかとか、何をするために生きているのかとか。
みんな何かしらを抱えてどうにか生きていると思うのです。
そこで大切なのは何から逃げてもいいけれど、
自分からだけは逃げちゃダメだということなのかもしれません。
上手くいかない時に社会とか誰かのせいにしたくなるのは常ですが、
自分の足で立って自分で選んで行く人生を歩めたら良いですよね。
僕はラストで母親からの手紙の封を切り、電話をしていました。
僕と母の間に何があったにせよ、それと向き合うために一歩踏み出したのです。
この一歩が、ただ受話器を取るという行為が
なかなか困難であることを理解できる人の中にも僕は存在するのかもしれません。
生きてる意味あんの?
って僕とユウスケは言われてしまっていましたが、それを
あの段階で理解できてしまったらその先の人生がつまらないのかもしれない
のではと思いました。
その答えは一生をかけて見つけたっていいんじゃないのかな
と筆者は思います。
こんな時代だからこそ焦らず笑って生きていきたいと痛感する一作でした。