『落下の解剖学』事件の結末に隠された妻と息子と愛犬の真実を考察する

洋画
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第76回カンヌ国際映画祭で最高賞パルムドールを受賞し、
米国のアカデミー賞にて脚本賞を受賞した
『落下の解剖学』

ミステリーのようでミステリーにあらずな内容に
衝撃と話題を呼びました。

突如起こった転落事件は事故か他殺か?
その真相と結末の行方はどうなったのか?

そしてそこから見えてくる家族の秘密と嘘、
それぞれの感情に着目して考察しています。

この記事のポイント
『落下の解剖学』の結末
妻と息子と愛犬の真実
サミュエルとスヌープの関係

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『落下の解剖学』あらすじ

ベストセラー作家として知られるサンドラは夫と息子とともに
フランスの人里離れた雪山に住んでいた。

そんなサンドラの元に女子大学生が取材に来たが、
上階で作業をしている夫のサミュエルが流す音楽が大きく、
サンドラも集中できないため、取材を改めることになる。

サンドラは帰宅する女子大生を見送り、
息子のダニエルも愛犬スヌープの散歩に出かけた。

しかしダニエルが散歩から帰ってくると
サミュエルが落下して血を流している姿を目撃する。

急いでサンドラを呼び、救急車を呼ぶも
サミュエルが目を覚ますことはなかった。

事故か自殺か他殺か・・・
検証される中、ただ一人そこに居たサンドラへの
疑惑が高まっていく・・・。

キャスト
ザンドラ・ヒュラー、スワン・アルロー、ミロ・マシャド・グラネール、
アントワーヌ・レナルツ、サミュエル・セイス 

『落下の解剖学』は何処で見られる?

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以下、結末までのネタバレを含みます。
未視聴の方はご注意くださいませ。

本記事に情報は2024年8月時点のものです。
最新の配信状況は各サイトにてご確認くださいませ。

『落下の解剖学』の結末

物的証拠が何一つ出てこない中、状況証拠はサンドラに不利なものも多くありました。

サミュエルの精神科医による、
彼を精神的に追い詰めていたのはサンドラだった
という証言。

事件前日の夫婦の激しい口論を記録したUSB

そしてサンドラ自身の小説が
両親のことや息子のダニエルのことなどを書いた
オートフィクションだったのですが、

その中に夫のことを書いた物語があり、
消えて欲しい思惑巡らす主人公が書かれていたのです。

しかし最終的にそんなサンドラの不利を覆したのは
ダニエルの証言でした。

そうしてサンドラは無罪放免となります。

ダニエルが待つ自宅へ帰り、ハグし合う親子。
そしてサンドラが疲れ切って倒れこんだソファの
傍らで添い寝したのはスヌープ
でした。

明らかになる夫婦の真実

サミュエルの『落下』の原因が
事故か他殺か自殺なのか?

それを巡って起訴されたサンドラと真相を究明する裁判。

しかしながら真実を究明するには事実が少なすぎました。

物的な証拠は皆無と言っても過言ではありませんでした。
サンドラが黒であると示すのは状況証拠ばかり。

そんな中で唯一の動かぬ真実は
サミュエルが前日に録音した夫妻の会話でした。

そこに残されていたのは夫婦の問題点に他なりません。
ただし、そんな風に陥った要因には、
サンドラの身勝手さ、サンドラの浮気、サンドラの搾取、
そしてサミュエルを徹底的に追い詰める
モンスターのような本性でした。

サミュエルの要求は『執筆の時間が欲しい』というシンプルなものだったにも
関わらず、サンドラの不貞やサンドラがサミュエルの小説を盗んだと思われる発言、
そして夜の生活の不満に至るまで言及した真意にこそ真実が隠されている
のではないでしょうか。

さらにはサンドラが暴力を振るっていることにも
わざわざ言及し、自身は壁を殴ったりしてサンドラの暴力の証と
勘違いしかねないものを残しています。

そもそもこの録音をサンドラは知らなかったと証言していました。

そしてこの口論から受けるイメージは
サミュエルが自殺であろうと事故であろうと関係なく、
サンドラは酷い人間で、夫の小説をパクって我が物顔の作家!

というものではないでしょうか。

つまり、サミュエルはベストセラー作家として
多くのファンに支えられるサンドラの
作家生命を奪いたかったのではないのかと推察できます。

その裏には女性軽視を歌った曲を好んでかけていたサミュエルには
家族である妻の成功でさえ
〖家事は女の仕事だ〗
という固定観念が潜んでいた故の嫉妬があった可能性もありえます。

そうだとすれば、この事件は
サミュエルが仕組んだサンドラを陥れるための自殺
だったのだと推察できるでしょう。

想像力をかき立てるエンディング

大変な裁判を乗り越え無罪を勝ち取って
やっと息子の元へ戻れたサンドラ。

その気持ちはダニエルも同じなはず・・・。

しかし、疲れ切って眠るサンドラに添い寝したのは
ダニエルではなくスヌープでした。

唯一の『真実』である夫婦の口論で明かされたように、
ダニエルもまたサンドラのことを
〖モンスターだ〗と恐れていた
のです。

そしてその感情は父親の事件で確信に変わりました。

本当は父を死に追いやったと思っている母親が帰ってくる
怖さを隠しきれないダニエル。

一方で本当は自分を疑っているたった一人の家族と
2人きりになったサンドラの不安

それらが入り混じった母と息子のハグ。

これまではダニエルの頭をなでていたのはサンドラでしたが、
ラストではダニエルの方がサンドラの頭を撫でていました。

ダニエルが自ら選択したのは
サンドラが無実だという真実

だから、怖くてたまらない、実はまだ信じ切れていないけれど
この母を受け入れ、共に助け合っていく他に道はないという感情。

それはダニエルにとってサンドラとの
立場が逆転したことを意味しているのではないかと
思いました。

一方で、ポスターで描かれるのは倒れている夫と、
ダニエルではなく、サンドラの横についていたスヌープ

今回も葛藤に怯えるダニエルではなくサンドラの方に
寄り添ったスヌープ。

この描写が実はスヌープを大切にしているのはサンドラであり、
家族の中で唯一サンドラが信用しているのも
スヌープ
であったことを意味しているのかもしれません。

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妻と息子と愛犬の真実

事件はサンドラを陥れるためのサミュエルの自殺だった
と解釈しました。

それほどまでにこの夫婦の関係は破綻し、
その原因は夫の嫉妬から生まれたもので、
修復ももはや不可能であり、周りに人も少ない閉ざされた空間が
実行させたことと言えるでしょう。

もちろん、それは1つの考察に過ぎなく、正解ではありません。

しかし、大前提として本作の醍醐味は事件の真相がどうだったのか?
ということではないのだと思います。

起きてしまった落下の真実を隠したい妻、
真実がわからず傷つき翻弄される息子、
事件のカギを握る愛犬。

それぞれの心の真実こそに見応えがあったと
いえるのではないでしょうか。

サンドラという人

劇中の台詞から本当のサンドラを紐解いてみます。

まずはサミュエルの事件が起こった際、弁護士のヴァンサンに
〖私は殺していない。事故だと思う。〗
と言っています。

もしサンドラは手を下していないのが真実であったとしても、
通常であれば、前日の口論の当事者であるサンドラには、
〖自分が夫を追いつめたかもしれない〗
という不安がよぎるはずだと思うのです。

しかし即座に『夫は自殺はしない』と断言してしまうのは、
他者から〖事故だと思われて欲しい。〗
という強い願望の表れなのではないでしょうか。

また、自分に好意を抱いているヴァンサンに助けを請うのも、
法廷で少しでも心象を悪くしないために嘘の証言を繰り返すのも、
サンドラは常に保身に懸命になる形跡があるといえるかもしれません。

家族のことをネタにして小説を書きあげることも厭わないのは、
もっとも大事なのは小説家として成功した自分であるからだと
言えるのではないでしょうか。

そんなサンドラは自分の成功を邪魔するし良く思わない者を
うっとおしいと感じていたのかもしれません。

サミュエルはまさにそのうっとおしい相手であり、
サンドラが小説に書いた夫への感情は事実なのでは
ないかと考えられます。

とはいえ、夫を手にかけるようなことは
しておらず、身の潔白は証明したい。

しかし実際に裁判には勝利したものの
あまりスッキリ嬉しそうではないサンドラ。

それはTVのニュースで流れていたように、
無実ではあるがそれは有罪を証明できなかったに過ぎない

息子のダニエルでさえ真実を見極められないように、
サンドラの小説の読者や他人の見る目は
疑惑の妻のままなのです。

サミュエルの命を賭けた復讐は成功したのだと
言える結末でした。

そしてサンドラにとって一番打撃を与える方法が
作家としての失脚であると考えたサミュエルは、
奇しくも夫として妻を最も理解していたと言えるでしょう。

ダニエルの証言

そんなダニエルですが夫婦の会話についての証言を
途中で覆します。

最初は『外で聞いた』としていた夫婦の会話を
検証により、音楽が邪魔して大声で怒鳴らないと聞こえない
ことが判明すると、
部屋の中で聞いた』と訂正します。

このことは何やら意味深に描かれますが
回収されなかった伏線でした。

そうするとこれは事件のヒントだったのでしょう。
だとすれば、その声を聞かせた目的は
事件の直前にサンドラとサミュエルが一緒に居たという証明がしたかったから。

ならば、それはサミュエルがサンドラが犯人であると
ダニエルや検事に思わせる
ために画策したものでしょう。

そして最初の証言通り、本当はダニエルは外で聞いたのかもしれません。

ただし、わざと聞かせることが目的だったため、
それは肉声ではなく、予め録音されていた夫婦の声
を窓から外に居るダニエルにむけて流したのだと思います。

サミュエルとスヌープの関係

愛犬家の視聴者ならば劇中のダニエルのスヌープへの
行動
に、疑問を呈したのではないでしょうか。

少年であり、弱視であるということを考慮しても
その行動はあまりにも酷い場面もあったからです。

法廷監視員のマルジュがダニエルに密着するにあたって
『友達だと思って』
と言った発言に対して、
『友達になる必要はない』と返しています。

ダニエルは容易に他者を受け入れないと考えることもできます。

ともすれば、自分の目となり助けてくれる存在である
スヌープのこともまた、単なるお手伝いさんであり、
友達や家族になる必要はないと考えていたのかもしれません。

しかしその関係性は、事件直前のサンドラとサミュエルの関係にも
似ているのではないでしょうか。

サンドラが別れを切り出さないのは、サミュエルが家事や育児を
担当してくれて、自身は仕事に没頭できる環境を与えてくれる
存在だったから。

必ずしも夫という一番大切で愛する人ではなくなったとしても
今すぐには手放す必要もないという
まさしくモンスターのような思考に至っていたのです。

ダニエルは最終的にサミュエルがスヌープについて
〖いつかはいなくなってしまう〗と語っていた
話を自分のこととして示していたと証言します。

よってサミュエルに自殺の意志があったと受け取ったと。

しかしながら当然、これは事実ではなく、ダニエルの記憶に過ぎません。

そしてサミュエルが自分とスヌープを重ねたことこそが
カギになっています。

サミュエルはダニエルのスヌープに対する酷い行動を見て、
まるでサンドラが自分に接する態度のようだと
心が傷んだのではないでしょうか。

だからこそ、サミュエルのこの会話の意図は、
自身がもうすぐ居なくなることを示唆したのではなく、

スヌープはダニエルを懸命に助けてくれる大切な存在であること。
その犬生が儚いことを諭し、
スヌープに対してもっと優しさや愛情をもって欲しかったのかな?
と考えました。

まるで何度もサンドラへ願ったように。

今となってはダニエルがサンドラのようなモンスターにならないために、
サミュエルができる最低限のことだったのかもしれません。

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『落下の解剖学』感想

スヌープを演じたメッシ君もパルム・ドッグ賞を受賞された
のだと言う本作。

そんなスヌープがアスピリンを飲まされた場面では
全愛犬家のみなさんが発作を起こしてしまったのではないでしょうか。

かくいう筆者も失神寸前でした。
しかしなんとあれは約2か月に及ぶ訓練の末に
教え込んだ演技だったというのですから脱帽ですね!

そこまでするからにはあのスヌープがとても重要な役割を
担っているのだと伺えます。

筆者的にはサンドラとサミュエル、
ダニエルとスヌープ
という関係性が対になって
いた
のだと考えました。

しかしサンドラが最も信用して安心している相手もまた
スヌープであると示唆するのはラストまで意味深すぎましたね。

サミュエルの事件の真相が本当はどうだったのか?
永遠に封印された真実にモヤモヤします!

しかしそんな気持ちをダニエルが実の母親に抱いていて、
これからも一つ屋根の下で暮らさなければいけない
まさにダニエルにとってはこれからが正念場なのかもしれません。

〖事故だとは考えられない〗と敏腕弁護士のヴァンサンに
言わせたのだから、自殺か他殺であることを示唆している
とも推察できます。

その場合、どちらにしても、ダニエルにとって耐えがたい真実であると
言えるではないでしょうか。

それでも自分の選択を受け入れ、母親の正体が如何様だったとしても
受け入れていかなくてはならないのです。

そして息子をそんな過酷な葛藤と苦悩の渦に陥れた、
そもそもの発端は夫婦関係のもつれ、複雑な感情にあると
言えるでしょう。

夫婦関係のもつれを上手く解けなかった
サミュエルは身も心も落下してしまったのです。

本作の鑑賞で結婚恐怖症になる人が増えないことを望みます(笑)

夫婦間であっても、親子間であっても、
相手を尊重し、大切に思い、感謝の気持ちを忘れない、
そんな些細なことの積み重ねを末永く忘れないことが
本当に重要なのかもしれない
と痛感する一作でした。

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