『ピッチパーフェクト』シリーズでお馴染みの女優
アナ・ケンドリックの初監督作品
『アイズ・オン・ユー』
現代は『ウーマン・オブ・ザ・アワー』で
『時の女性』という意味です。
そして本作は1978年のアメリカで実際に起きた殺人事件の
犯人が罪を問われながらTV出演を果たしていたという
衝撃の実話に基づいています。
なぜそんなことが起こるのか?
アナ・ケンドリックが伝えたかったこととは何か?
ネタバレありで感想と推察を綴っています。
それではよろしければど~ぞご一読くださいませ。
『アイズ・オン・ユー』あらすじ
◆配信開始
— Netflix Japan | ネットフリックス (@NetflixJP) October 18, 2024
Netflix映画『アイズ・オン・ユー』(アメリカ)
舞台は1970年代のロサンゼルス。テレビ番組「ザ・デートゲーム」の出演者に選ばれたのは、駆け出しの女優と連続殺人鬼。全国放送の番組内で、2人の運命が交差する。
実話を基に描く数奇な物語。#アイズ・オン・ユー pic.twitter.com/VYqesdmDa6
女優としてなかなかうだつが上がらないシェリルだったが
ロサンゼルスにやってきてオーディションを受けまくっていた。
いつも『情熱が伝わらない』という常套句によって
不合格を言い渡されるシェリルに、顔と名前を売るため、
エージェントは『ザ・デート・ゲーム』という人気番組出演の仕事を
すすめてきた。
目指している女優の仕事とは程遠い、TV番組の出演を
シェリルは乗り気になれなかったが、
友人のテリーに励まされ出演に向けて準備をすすめる。
司会者から、ただニコニコしてアホなふりをするように
言われたシェリルはその指示に従う。
いよいよ番組がスタートすると、仕切りの向こうに
シェリルが選ぶデート相手候補の3人の男性が現れた。
その時、客席にいたローラは3番目の男性を目にした途端
青ざめ客席を立つと、モニターにつまずき、落としてしまう。
一時騒然とする現場だったが、
ローラは逃げるように立ち去り、
司会者がその場を繋いで、番組は再開される。
立ち去るローラと視線があったシェリルは
何かを感じながらも気分を切り替え
アホな女性役に徹していたが・・・。
キャスト
アナ・ケンドリック、ダニエル・ゾヴァッド、ニコレット・ロビンソン、
トニー・ヘイル、キャサリン・ギャラガー、オータム・ベスト 他
以下、結末までのネタバレを含みます。
未視聴の方はご注意ください。
本記事の情報は2024年10月時点のものです。
最新の配信状況は各サイトにてご確認くださいませ。
『アイズ・オン・ユー』ネタバレ感想・考察
物語の冒頭で映し出されるのは、
女性の首を絞め、意識を失わせた後、
人工呼吸を施して意識を取り戻させてから、
暴行に至っているという衝撃の犯行の様子でした。
しかしこれが実話なのだということで、
更なる重みと衝撃に襲われることになります。
シェリルの逆襲
駆け出しの女優であるシェリルは、いくつものオーディションに
出向いてはみるものの、なかなか役を貰えないでいました。
『情熱が伝わらない』というのが不合格の表向きな理由。
真実は、シェリルの容姿が面接官の好みに合わないとか、
彼らの思うナイスバディに当てはまらないとか、
露出を嫌うとか・・・
そういうところで選ばれないのです。
オーディションに受からず、得られる映画がないならば、
顔を売るためにバラエティ番組の出演を受けることは
あながち間違ってはいないのかもしれません。
ところがここでは、バラエティなのにも関らず、
〖ニコニコしているだけのアホ女〗
を演じさせられるシェリル。
最初は言われた通りの指示に従っていたものの、
あまりにもくだらない質問の数々を読み上げなければならない
バカバカしさに耐えかねたシェリルは、
自身で質問を考えることを決意します。
司会者も候補者もシェリルの知的な質問にタジタジになり
見ている女性陣はスカっとしたのではないでしょうか。
そしてそれらは功を奏して観客たちをも
盛り上げていました。
そんな中、シェリルの質問に唯一ついてこられた3番の男性ロドニー
をデート相手として選んだシェリルでした。
3番の男の正体
番組は無事終了して、制作サイドからは内心嫌われてしまうシェリルでしたが
颯爽とTV局を後に帰宅の途に就こうとした時、
ロドニーが声をかけてきました。
番組内でのロドニーの回答は、他の2人が論外だったことも
あり、際立っていました。
番組の最後で、2番の男性がシェリルに『ロドニーに気をつけろ』
と警告をしてくれますが、
ロドニーに誘われ悪い気はしなかったシェリルは
2人きりでお酒を飲みに行きます。
(実際のシェリルは番組外でロドニーと関わることはなかったそうです)
しかし、一転してロドニーの中に不穏な様子を見出した
シェリルは早々に帰宅しようと画策します。
嘘の連絡先を教え立ち去ろうとした時、
暴言を吐いたロドニーに恐怖を覚え、急いで車内に乗り込もうと
しますが、ロドニーに遮られてしまいます。
しかしそこへ、番組のスタッフたちが通りかかり、
事なきをえたのでした。
事件の結末
番組出演の以前にも以後にも犯行を繰り返していたロドニー。
なぜ彼は野放しになっていたのでしょうか。
ローラにはかつてビーチで、
友達を1人にしたせいでその命が奪われてしまったという
罪の意識がトラウマになっている過去がありました。
『ザ・デート・ゲーム』の客席に出向いたローラは、
ロドニーを発見してその悪夢がよみがえったのです。
彼こそがかつて友人を奪った悪魔であったからです。
客席から逃げ出したローラに寄り添う恋人でさえ、
あの3番が殺人犯であるというローラの証言は
受け入れられませんでした。
それでも犯人の逮捕を望んだローラは番組の責任者に
このことを伝えようと警備員に相談します。
ローラをプロデューサーのところへ案内した警備員は
座って待っているように促しその部屋を後にしますが、
そこへ現れたのは責任者ではなく、清掃員でした。
警備員はローラの話を真に受けなかったどころか、
からかって侮辱するような行動に及んだのです。
その後も諦めずに警察へも足を運んだローラでしたが、
犯人を逮捕するために尽くしているはずのその組織でさえも
ローラの言い分は取り合ってもらえなかったのです。
そうして、ロドニーは野放しになったまま
犯行を重ねます。
ロドニーの次のターゲットとなったのは
路上生活をし、窃盗をして凌ぐエイミーでした。
エイミーもかつての被害者たちと同じように、口車にのせられ、
写真撮影のモデルとして連れて行かれた人気のない場所で
毒牙にかかってしまうのです。
しかしエイミーは意識を取り戻すと、自身は縛られており、
ロドリーが泣いているのを目撃して、事態を正しく把握しました。
『このことを誰にも言わないで欲しい』
とロドニーに提案すると気にしていない素振りで
共に帰宅の途につくことに成功します。
ロドニーはエイミーに酷いことをしたと謝罪し、
帰り際にガソリンスタンドに立ち寄りました。
ロドニーが車を降りてスタンド内のトイレに入っていくと、
エイミーは逃げ出し、ダイナーへ行くと警察に通報しました。
トイレから戻ったロドニーは警察に確保され
ようやく逮捕されて行きました。
実話の背景
実際のロドニーは数件の事件を立件され刑が課されました。
しかしながらロドニーの画像には実に1000枚以上の被害者とおぼしき
画像が残されていることから、
実際の犯行の数は遥かに多く、130件以上はあると言われているのだそうです。
ロドニーがTV出演をしたのは、その犯行の最中のことでした。
もしもローラの証言を真剣に受け止められていたならば、
その後の犠牲者は出なかったのかもしれません。
本当に怖いのは、
脅威を示したのが女性だったというだけで、
さらなる犯罪を未然に防げたかもしれない訴えを
なかったことにされてしまったことです。
監督のメッセージとは
女優アナ・ケンドリックが本作を監督デビュー作に選んだ背景には
自身も虐げられた過去があったのだと言われています。
そのように自身もその渦中にいると言っても過言ではない
女性視点から描かれる本作のメッセージは何でしょうか。
一個人の解釈ですが、
現代でも悪意のない〖女性だから〗という思い込みは
無意識に確立されている気がします。
それでも悪意があるかないかに関わらず
受け止める側が傷つくのかどうかということを、
慎重に、意識的に対応しなければ、完全になくなることは
困難なのかもしれません。
しかし、
女性を餌食にする犯人のように、女性蔑視の巨大化した
モンスターが現れれば女性の人生をも終わらせてしまう脅威が
そこには確実にあるのだということ。
その危険性は社会で真剣に取り組んでいかなくてはいけないことの
重要な事柄なのだと示唆しているのでしょう。
そんな世界で奇しくも最後の被害者になってしまったエイミーの
命を救ったのは女性蔑視を逆手にとった行動だった気がします。
〖絶対に言わないから〗と言うことは主導権を握っているのは
自分だと言ったのも同じことです。
そこをあえて『誰にも言わないで。気まずくなるから。』
という哀願に変換したことで、
犯人を刺激することなく、犯人よりも弱く、取るに足らない人物を
演じきったのです。
実際の犯人の父親は幼いころ妻とロドニーたちを
捨てているのだそうです。
女性、子どもは見捨てて良い存在…
傷ついた少年の心にはそんな風に刻まれてしまったのでしょうか。
本作の背景にある真実には目を塞ぎたくなりますが、
この作品を監督としてのデビュー作に選んだ
勇気あるアナ・ケンドリックの今後の活躍を期待せずには
いられない一作です。
(でもアナのコメディが大好きなのでそれにも期待したい!)