実在した若き詩才・中原中也と駆け出しの女優・長谷川泰子の恋、
そしてそこに文芸評論家・小林秀雄が出会ったことから始まった
三角関係。
その結末はどうなるのか?
そしてタイトルの切なすぎる意味などに着目し、
一個人の考察を綴っています。
『ゆきてかへらぬ』あらすじ
映画『#ゆきてかへらぬ』🌸新キャスト解禁!
— 映画『ゆきてかへらぬ』公式 (@yk_movie2025) August 16, 2024
長谷川泰子(#広瀬すず)と
歪で壮絶な愛憎関係で結ばれていく
ふたりの男 ──
〖不世出の天才詩人〗
中原中也 役 #木戸大聖
〖日本を代表する文芸評論家〗
小林秀雄 役 #岡田将生
❝女と男❞ ❝男と女❞ ❝男と男❞
偶然ともいえるその出逢いが、… pic.twitter.com/oCPTlH5pqr
1924年、大正末期の京都の一角で駆け出しの女優・長谷川泰子は
屋根で見つけた柿を手にたたずんでいた。
そこへ歩いて来たのは赤い傘を差した詩人志望の学生・中原中也だった。
中也は泰子を自分の部屋に招いた。
食事をしたり、会話をするうちに瞬く間に惹かれ合ってしまう2人。
一緒に暮らすようになるのは自然の流れだった。
20歳の泰子と17歳の中也は同棲を始め、
詩の制作に没頭する中也を泰子は支えていた。
そんな最中、中也の友人である富永が療養のため東京へ帰郷したことをきっかけに
泰子と中也も東京へ上京することとなる。
ある日、東京でかまえた中也と泰子の家に富永を介して知り合った
後の日本を代表する文芸評論家の小林秀雄が訪れるのだった。
キャスト
広瀬すず、木戸大聖、岡田将生、田中俊介、トータス松本、
瀧内公美 、カトウシンスケ、草刈民代、柄本佑 他

以下、結末までのネタバレを含みます。
未視聴の方はご注意ください。
本記事の情報は2025年6月時点のものです。
最新の情報は各サイトにてご確認くださいませ
『ゆきてかへらぬ』三角関係の結末
中也との恋を経て小林との繋がりを大事にしていた泰子は
最終的には中也とも小林とも分かち、一人で歩いて行く道を選びました。
泰子が辿った三角関係の結末はどのようなものだったのでしょうか。
中也との無邪気な恋
20歳の女優志望の泰子は才能あふれる中也との出会いで、
彼に感化され、その純粋さや幼げな表情とは裏腹に
闇を抱える中也に惹かれていったのです。
そうして泰子と中也の恋は始まりました。
中也は楽しい思い出があるのは幼少の頃だと言いました。
その時までは弟の存在があったからです。
弟を失くした中也は詩の世界に目覚めたのだそうです。
悲しみや苦しみを言葉に閉じ込めることで何とか
自我を保ってきたのかもしれません。
一方で幼い泰子もまた、何度も自殺しようとする母との苦悩、
そして娘として母の血を受け継いだことに疑念を抱いて生きてきました。
経験したことは違えど、『死』をめぐって葛藤してきた者同士、
2人はぶつかり合い、時には支え合い、依存しあう関係だったのです。
東京での出会い
しかし東京へ引っ越すと2人の関係は影を落としていきます。
富永を介して出会った小林秀雄という評論家の存在があったからです。
秀雄は中也とは対照的に穏やかで理性的な大人の魅力がありました。
悲しみで繋がる中也と泰子は楽しい時もあれば、
一緒にいることが苦しい時もあったのでしょう。
全身全霊でぶつかりあう中也とのしんどい関係とは対照的に
一定の距離を保って見守ってくれる小林の存在は安らぎだったのかもしれません。
選択の時
何度か小林との密会を重ねた泰子は中也との別れを決意するのです。
荷物をまとめて出て行こうとしたその時、中也が帰宅します。
泰子が小林の元へ行こうとしていることを察知した中也は
泰子の荷物を小林邸まで運んで行きました。
小林は料理をしない泰子のために仕事帰りに
夕食の買い物を担うなど、泰子に尽くしていました。
しかし泰子の方はというと、少しずつ神経が病んでいって
しまったのです。
中也からの柱時計の贈り物を叩きつけ絶叫する姿は
狂気そのものでした。
そこで小林は、中也と3人で会うことを提案します。
すると泰子の様子は落ち着いて見えました。
2人の不幸は終わった
自分には泰子を幸せにできないと悟った小林は
引き留める泰子を振り払い家を出て行き奈良へと旅立ちました。
一人になった泰子を迎えに来たのは中也でした。
『あの頃は楽しかった』と言う泰子に
『子どもだった』と諭す中也。
復縁を求めた中也でしたが、2人の不幸は終わったのだと
その申し出を断る泰子でした。
そうして一人で生きて行くことを決めた泰子が立っていたのは
撮影所でした。
三角関係の終わり
その後、女優の仕事を続けた泰子は
中也と小林と再会します。
遠縁の女性と結婚し、息子が誕生した中也でしたが、
幼い息子は命を落とし、自身もまた病魔に襲われていました。
それから間もなく、中也の訃報を聞いた泰子は
中也の赤い手袋を抱きしめ涙を流しました。
中也との別れに、赤い手袋を添えた泰子と、
中也が旅立つのを見ることができない小林でした。
泰子は支えがなくなって以来、背中が曲がってしまう・・・
と微笑みながら、小林に別れを告げました。
そうして泰子と中也と小林の奇妙な三角関係も
終わりを告げたのでした。
『ゆきてかへらぬ』切なすぎるタイトルの意味
『ゆきてかへらぬ』というタイトルは中原中也の作品のタイトルであり、
実際の長谷川泰子氏のインタビューをまとめた書籍のタイトルでもあります。
その言葉が意味するのは
一旦選択した道へ進んだら元には戻れない
というものです。
この言葉から予想するに、中也との別れを選択し、
小林との道を歩みながらも、
中也との日々に思いをはせていた様子が伺えるのではないでしょうか。
とはいえ、小林が去った後、泰子を迎えに来た中也を受け入れる
ことはありませんでした。
それはあくまで
出会った頃の中也との日々が泰子には輝かしく愛おしい思い出
だったからなのでしょう。
中也曰く、『子どもだった』という2人の楽しい思い出は
大人になった2人には取り戻すことはもう難しかったのかもしれません。
『ゆきてかへらぬ』感想
本作で泰子を演じた広瀬すずさんのセリフが印象的でした。
一つ目は中也との恋を、その別れを
『終わったのよ、私たちの不幸が』
と称したセリフ。
中也の痛み、泰子の闇は共鳴を生んで
全身でぶつかりあう恋愛は、救いと同時に
相手を蝕んだのかもしれませんね。
それは恋であり不幸への道のりでもあったのでしょう。
実際の中也と泰子は復縁はなかったものの、中也が生前の時はずっと、
泰子を見守り、泰子の息子の名を中也が命名したりと、
何かしらの繋がりがあったと言います。
不幸という名のもとに思いを寄せた2人が切ないですね。
一方で小林との恋愛では
『神経と神経で繋がろうとした』という泰子。
中也と小林と言えば、小林は中也の才能を愛し、
中也もまた、適格な評論を放つ小林を、自分を受け入れてくれる唯一の人
として敬愛していました。
泰子が初めて中也と小林の仲を察知した時、
すこぶる機嫌を害し、小林に嫉妬を疑われていました。
異性でもない小林に嫉妬する理由こそ、
2人が泰子の理想とする神経と神経で繋がっている関係だったから
なのかもしれませんね。
いずれにしてもこの3人が織りなす三角関係は
実はどれか一辺が抜けたら成り立たないという
切ない繋がりだったのでしょうね。
それにしても、木戸大聖さんと中原中也さんが似ていて
驚きを隠せない一作でした。