『金子差入店』が描く家族崩壊の真相とは?小島高史の動機を考察する

邦画
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SUPER EIGHTの丸山隆平が約8年ぶりの
主演映画である『金子差入店』

『東京リベンジャーズ』などの助監督を務めていた
古川豪氏が初の長編監督作となっており、脚本も担っています。

刑務所や拘置所に収容された人へ小さな希望を届ける「差入屋」

彼が見た家庭崩壊の裏にあったもの
北村匠海が怪演した小島高史の本当の動機は何だったのか?
ということに着目して考察しています。

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『金子差入店』あらすじ

金子真司は拘置所や刑務所に収容された人への面会の代行をする
差入屋を家族と共に営んでいる。

元々は叔父の星田が営んでいたのを引き継ぐことにしたのだ。

真司には傷害事件で服役した過去があり、
その際面会に訪れた妻の美和子に八つ当たりする場面もあった。

しかし、ふたりの子どもを一人で出産し、育てる美和子と、
まだ見ぬ自身の息子のために、
人生を立て直す決意を固めて差入屋として人生を立て直した。

そんな折、息子の和真の幼馴染である花梨
一人で習い事へ出かけたまま行方不明になる・・・。

キャスト
丸山隆平、真木よう子、三浦綺羅、川口真奈、村川絵梨、甲本雅裕、
根岸季衣、北村匠海、岸谷五朗、名取裕子、寺尾聡
 他

以下、結末までのネタバレを含みます。
未視聴の方はご注意ください。

本記事の情報は2025年8月時点のものです。
最新の情報は各サイトにてご確認くださいませ。

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家族崩壊の真相は母性の欠如か?

母親たちが実に多種多様に描かれているのも
本作の特徴の一つと言えるのではないでしょうか。

そして母親たちの母性が欠如していることによって
家族間のトラブルも勃発しているように感じました。

母親になる選択を捨てた容子

幼いころに父親を失った(パンフレットより)真司は
それから母親だけが頼る存在だったはずでした。

しかし母親の容子もまた夫を失った悲しみを癒すためなのか?
新たなパートナーを探すことに懸命になるのです。

それからは息子を顧みず、母親よりも女性の道を選ぶ容子でした。

自分には何もしてくれず、見知らぬ男性に夢中になる
母親を間近で傍観することになる真司の胸中はどんなものだったのでしょうか。

そんな生い立ちから容子を母親だとは思わない真司と、
息子の留守を狙って金の無心に訪れる容子との間に
隔たりが生まれることは必然だったのではないでしょうか。

しかし真司は星田からある真実を聞くことになります。
それは真司が服役していた頃、一度も面会に訪れなかった容子でしたが、
実は星田に面会の代理を頼んでいたことを聞きます。

その件もあってかラストの方では容子に、佐知から送られたイチゴを
ドアにかけて帰る真司は、しかし容子に対面することはなかった
ことから、ほんの一歩ずつではあるけれども、
確実に歩みよろうとする気持ちを察することが出来ました。

強く優しい母性の持ち主

真司の容子に対する気持ちの軟化があった要因には
星田が語ったこと以外にも美和子の存在は大きかったと言えます。

美和子は両親を失くしており(パンフレットから)
生存している両親が存在すること自体羨ましかったのだと思います。

そんな事情から容子を敵対する真司をたしなめ、
容子に金銭を渡していたのです。

そんな美和子とは容子の件で口論する真司でしたが、
母性の欠如によって生まれた怒りやすさという代償を
取り払ってくれたのは他でもない美和子だったのです。

星田は服役した真司と別れることを美和子に勧めたことも
ありましたが、断固として首を縦に振らなかったのです。

息子を見捨てて他の男性に走る容子とは裏腹に、
美和子は真司を待ち信じ続けたのです。

そんな美和子に備わる強さと母性
真司の心の雪も溶かした
のではないでしょうか。

娘が金に見える母

実の娘に身体を売らせていた佐知の母芳恵

母の生前、いつも制服姿だったのは
ろくに服も買って貰えなかったからなのだといいます。

娘が金に見える母親はもちろん、仕事以外の会話を交わすことも
料理を作ることもありません。

そのくせ仕事の話には手厳しく、過酷な仕事も
無理強いさせていたのではないでしょうか。

横川に刺され出血して弱っている母親を見て、
チャンスだと思った佐知は自らとどめを刺したのです。

母性の存在を知らない母

一方で花梨やその他の無差別殺人を犯したとされる
小島高史の母親こず江の場合はどうでしょうか。

あまり深い背景が描かれることはありませんでしたが、
高史の右目に課された度重なる手術で瞼が麻痺してしまった
経緯に母親が関与していることは間違いありません。

そして犯行後に帰宅する血まみれの息子を
チラッとみることも声をかけることもしないこず江は
これまでも高史に対して無関心を貫いてきたのではないでしょうか。

赤ちゃんの頃のように自分に従順な子どもは扱えるが、
反抗期などには対応できず、関心を捨てることで
日常を取り繕ってきたのでしょう。

報道陣の前で涙ながらの謝罪をするこず江は、
水をまき散らし彼らを追い払う人にもなるのです。

最初こそ謙遜を持って真司に接していたこず江でしたが
「当然の権利」だと言う真司の優しい言葉につけあがり
執拗に連絡してきては過剰な要求を繰り返すのです。

きっと高史の右目に関しても
こず江のこの性格が無謀な複数回の手術という奇行が
繰り返された結果なのではないでしょうか。

そしてその失態の責任は医者になすりつけるのです。
高史が言った「クソ医者」はこず江の受け売りなのかもしれません。

店の前まで来て電話で真司を罵倒する姿や、
高史が逮捕されてから少しずつ身なりや化粧が派手になっていく
こず江は恐怖そのものでした。

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小島高史の犯行動機の真実とは何か

高史に面会に行く真司は花梨を手に掛けた被疑者に
「どうして犯行に及んだのか」
を聞かずにはいられませんでした。

すると高史は「社会に対する復讐だ」と答えました。
それは漠然としていて、花梨の犯行動機と呼ぶには
ふさわしくない回答でした。

こず江を「あの女」と呼ぶ高史の胸中には
帰宅して声を出しても無視をする母親に対する憎悪が感じられます。

しかし母親に憎悪を持ち続けるということは執着している
ことにも等しいのです。

自分が望む母親像を捨てきれないのかもしれません。

犯行動機の真実は社会に対する復讐ではなく、
こず江を殺人犯の母親にするという、彼女に対する復讐であり、
それをもって自身に注目して欲しいという潜在的な願望
入り混じったという動機だったのではないでしょうか。

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エンドロール後のシーン

物語は結局「解決」を迎えず、
それぞれがこれからも重荷を背負って生き続けるのであろう
姿が描かれ幕を閉じました。

しかしエンドロールが終わると、ある場面が映し出されます。

それは、金子差入店の前の植木鉢がひとつだけ
また壊されており、それを淡々と片付けた彼が
「ただいま」と言って家の中へ入って行く
シーンでした。

「ただいま」と言ったのは誰か?

壊された植木鉢を淡々と片付けるその人物の顔は
最後まで映し出されません
でした。

これにはどんな意味があるのでしょうか?

この場面の「彼」は真司なのだと思います。
そして真司がこれまでのように怒りをあらわにすることなく
淡々と片付けをするその姿は彼の成長を映し出しているのでしょう。

しかしその一方であえて「顔」を映さなかったその理由が
あるのではないか?と思いました。

それは真司の息子の和真もまた将来、「金子差入店」を
引き継ぐのだという未来
を視聴者に見せたのではないでしょうか。

屈しない覚悟

エンドロール後のこの場面は決してハッピーな描写ではありませんでした。

被疑者に対して差し入れをする真司たちに対する
社会の敵意があらわになっています。

その敵意はおそらく近所の住人のもので、
これからもそのいやがらせは続くのかもしれません。

それでもその仕打ち自体を日常の一部にしてしまった
真司にもう迷いはないのだという強い意志を感じました。

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『金子差入店』感想

差入屋という存在自体、知らなかったのですが
そんな彼らに対する世間の反応の冷たさが続くラストは、
何も楽にならない、解決に至らない、そんな重みのある物語でした。

服役した過去がある真司が立ち直り、
前を向くことが出来るのには、彼を思う人や、
守りたい存在があるというのが大きいところだったのでしょう。

もしも美和子も和真も星田も不在だったのなら、
真司にも高史のような未来があったのかもしれません。

また元構成員の横川と佐知の結末も
お互いがお互いを救った場面が印象的でした。

自身を犠牲にして守るための罪を犯し、
その罪を一人で背負って逮捕された横川。

奇しくも、娘を守る本当の父親のようだったのでは
ないでしょうか。
(もちろん、罪を犯してはいけませんが。)

佐知もまた横川が自ら命を絶つことを止めたのです。

横川は再犯でいずれも人を殺めていることから
もしかしたら二度と佐知と再会することはないのかもしれません。

例えそうだったとしても、自分には待っている人がいる
という事実が横川を救ったのではないでしょうか。

本作では主に母親と子どもの関係が重点に置かれていましたが、
高史も、佐知も、そして真司も、目の前の母親が
母親ではなくなった瞬間を味わってきたのでしょう。

親に言われたこと、されたこと、自分への気持ちが黒かった時、
子どもは地の果てまで飛ばされた気分になります。

それでもきっと、母のように、父のように、そして
家族のように包んでくれる誰かがどこかに存在している
そう信じたいと思う一作です。

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