『ヘレディタリー/継承』、『ミッドサマー』などで名を馳せた
アリ・アスター監督の最新作
『エディントンへようこそ』
が早くもAmazonプライムビデオで配信中となっています。
そこで本記事では本作の不穏なラストに迫ります。
ジョーの末路が意味することは何なのか推察しています。
『エディントンへようこそ』あらすじ
2020年5月、パンデミックの脅威が世界中を襲っていた。
これを受けてニューメキシコ州のエディントンという小さな町でも市長の、
テッド・ガルシアは州知事の要請に応じ、
ロックダウンを決行し、全ての市民にマスクの着用を義務づけた。
しかしこの町で保安官を務めるジョー・クロスは自身が喘息を抱えていること
もあり、個人の自由を掲げて、テッドの決定事項に抗がっていた。
ジョーは引きこもりがちで精神が不安定な妻のルイーズと、
期間限定という約束で同居する義母のドーンと3人で暮らしていた。
そんなある日、スーパーへ買い出しに来たマスク未着用の男性を
助けたことがきっかけで英雄視されたジョーは、
この町にデータセンターを設立しようとしているテッドの対抗馬として
名乗りを上げ、市長選への出馬を表明する。
キャスト
ホアキン・フェニックス、ペトロ・パスカル、エマ・ストーン、ディードル・オコンネル、
オースティン・バトラー、ルーク・グライムス、マイケル・ウォード 他
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以下、結末までのネタバレを含みます。
未視聴の方はご注意ください。
本記事の情報は2026年3月時点のものです。
最新の情報は各サイトにてご確認くださいませ。
『エディントンへようこそ』不穏なラストを考察
市長のテッドに対抗するため自らも出馬を表明したジョー。
しかしジョーのこの決断こそが不穏なラストへと
自身を導いてしまうのでした。
最愛の妻ルイーズとの決別
ジョーには家に引きこもりがちなルイーズという妻がいました。
ジョー自身はルイーズに気遣い、
奇妙な人形を作る彼女に部下を使って顧客を偽装するなど、
影ながら妻を支援していたのです。
しかし夫婦仲は・・・というと、
同じベッドで眠るものの、親密な関係は構築できずにいました。
子供が欲しいジョーの願はなかなか叶うことはありませんでした。
ルイーズには異性関係でトラウマがあったからです。
そのトラウマの正体はテッドが元凶であると義母のドーンは言います。
ドーン曰く、若い頃にルイーズはテッドに
性的な暴行を受け、懐妊したのち中絶に至ったというのです。
そのことからジョーはテッドに対し個人的な感情を持っていました。
ジョーの市長選への出馬は、テッド個人への怒りや嫉妬が
大きく関わっていたと言えるでしょう。
だからこそ、ルイーズの心の傷をかえりみることが出来ず、
SNSを通じて妻のトラウマの正体がテッドであると
公表してしまったのです。
しかしこのことは肝心なルイーズ自身の信頼を裏切り、
元々構築できずにいた夫婦関係は崩壊の一途を辿ることになりました。
ルイーズの真実
ジョーを見限ったルイーズはカルト指導者ヴァーノンの元へと去っていきました。
そしてすぐさま自らもジョーが発信したテッドへの暴露を否定する
配信を行ったのです。
実際にテッドとルイーズの間には何もなかったのです。
本当にルイーズに暴行をはたらいていたのは、
保安官だった今は亡き実父だったと思われます。
しかしこの事実をジョーもドーンも認めようとはしませんでした。
それどころか、父の大きな写真を飾ってルイーズを苦しめた
悪の根源を崇拝していたのです。
それを見たヴァーノンはルイーズに寄り添い、
君の父親こそ感傷的(悪)だ!
と投げかけました。
その言葉を放つヴァ―ノンはルイーズにとって初めての理解者
となりました。
ルイーズを見つめる視線
亡くなった父親を崇拝し飾る家の中で
ルイーズの傷が癒えないのは必然でした。
さらにルイーズにとって年の差があり、父と同じ保安官である
ジョーとの間に愛情が構築されることは
始めから困難だったと言えるのではないでしょうか。
同じように、テッドとも親密になれなかった理由の裏には
彼もまた父の存在を彷彿とさせるからに他ならないのかもしれません。
ルイーズが作っていた奇妙な人形の意味を考えることは
なかったジョーでした。
しかしもしかしたらあの人形は
ルイーズ自身を投影し、ジョーやドーンにその痛みを
投げかけていたものなのかもしれません。
それを直視することはなかったジョーやドーンとは
異なり、自らも被害経験があるヴァ―ノンだけはすばらしいと感嘆します。
それを聞いたルイーズはヴァ―ノンこそ彼女の痛みを理解し、
共有し、解放できる味方なのだと瞬時に感じとったのではないでしょうか。
そして何より、ヴァ―ノンには父親の面影は皆無であることは
親密な関係へ発展する後押しもしたのでしょう。
ルイーズが探し求めていたのはヴァ―ノンのような伴侶であり、
彼と共に歩む道を選ぶことはむしろ父の視線がはびこる箱の中を出て、
彼女が生きる意味を選択したのだと言えるのかもしれません。
ジョーが暴走する理由
一方で最愛の妻を失ったジョーに残されたのは
自身の正義を全うすることだけでした。
そして保安官であるという誇りだけが残された正義を
掲げる支えとなっていたのです。
そんな折、テッド邸で行われていたパーティの騒音を巡って
苦情が入りました。
邸宅へ向かったジョーが流れていた音楽を止めると、
テッドが現れて曲の音量を上げるという地味な攻防を
繰り広げたのち、
ジョーは公然の場でテッドから数回にわたり平手打ちを
お見舞いされてしまうのです。
この瞬間、ジョーに残されたわずかな誇りも、
なんとか保っていた正義も崩壊してしまい、
その暴走はまるで八つ当たりのホームレスの殺害から始まり、
市長とその息子に手を懸けるまでになってしまいました。
見えない本当の敵
ジョーはテッド宅にBLM(ブラック・ライヴズ・マター)の講義運動に
参加していたサラのバッグが残されていたことを見逃しませんでした。
そこでジョーは部屋の壁に
「No Justice, No Peace」という彼女らのスローガンをスプレーで描き、
あたかもサラが関わっているように偽装しました。
しかし、エリックの友人・ブライアンが事件の夜、
警察車両を目撃したと言う証言をしたことでジョーの目論見は
転化していきます。
ブライアンはエリックがサラと親密だったことから、
彼女の元恋人であるジョーの後輩のマイケルが怪しいと言います。
これに便乗したジョーはマイケルの車両に証拠品を隠し、
マイケルは市長とその息子殺害の被疑者として逮捕されました。
そしてジョーは一連の事件にアンティファ(反ファシスト運動家)が関わっている
と記者会見で発表します。
ジョーが公言したアンティファとはサラたちを差しての発言だった
のでしょう。
しかしこれを容認することができなかった謎の武装集団が
ジョーら警察を抹殺すべく飛行機で乗り込んできていました。
確保していたマイケルは拉致され、
マイケルを追ったジョーとガイは武装集団の罠にはまり、爆発が彼らを襲います。
これによりガイは命を落としマイケルはひどいやけどを負う重症を負いました。
さらに武装集団に追われ、逃げながらも銃器を入手し応戦するジョーでしたが、
とうとう武装集団の一人に追い詰められ頭部を刺されてしまいました。
その現場に偶然居合わせたブライアンは
自らスマホと拳銃を手に、撮影しながらジョーにとどめをさそうとしていた
武装集団を射殺するのでした。
奇跡的に一命をとりとめたジョーでしたが、
全身を動かすことはできず、言葉さえ発することは
できなくなっていました。
しかしドーンが補佐するかたちでジョーは市長となったのです。
そんなジョーを撮影するやけど跡だらけのマイケルがいました。
ジョーを救ったブライアンは一躍時の人となり、
インフルエンサーとして活躍しています。
市長選から始まった争いは血の海を巻き起こし
エディントンの町を窮地に追い込みましたが
そこには何ごともなかったように完成したデータセンターが
きらびやかに立ちはだかっていました。
そんな中、暗闇で射撃訓練をするマイケルの姿で幕を閉じました。
ジョーの末路が意味すること
元々はテッドという市長に異を唱えた保安官・ジョーの
正義感だったはずの市長選出馬劇は思わぬ展開へ陥りました。
結末ではテッドが殺されたことで繰り上げのように市長になった
ジョーでしたが、もう正義を掲げることも主張を発することも
できない状態になってしまいました。
さらにテッドが激推ししていたはずの市民のためにはならないデータセンター
が、ジョーが市長になったラストで設立に至っていたという、
結局ジョーは何のために闘い何に打ち勝ったのかを見失い
混乱を招く結末になったのではないでしょうか。
危険はまだ終わっていない
元々はジョーは市民に優しい保安官だったのかもしれません。
白人のジョーはBLM運動の標的となって責められますが、
実際は部下で黒人であるマイケルを昇進させようと動いていました。
人種差別とは無関係の人物だったと言えるでしょう。
しかしマスクをつけるかつけないか?
という小さな意見の相違は小競り合いから大炎上の末、
殺戮までに発展してしまったのです。
市民のため、弱者のため、被害を受けている人のため
の正義だったはずのジョーの思いは、
それらを蔑ろにした瞬間から狂気へと変化してしまったのかもしれません。
嫉妬や疑念という感情は市長ではなく一人のテッドという人間を
闇に葬ります。
そして自身の保身だけを考えるという利己的な追求は
部下のマイケルの人生を崩壊させるのも厭わないまでに
落ちていきました。
劇中で最も争いから遠い場所に居たマイケルもまた
ジョーの裏切りによって黒く染まってしまったことが
ラストで示唆されています。
車椅子に乗り座っているだけのジョーを録画し、
闇夜で射撃訓練をするというマイケルの視線の先の
一番近い標的は無論ジョーなのでしょう。
しかしそれが発端となってやがてマイケルの標的が
白人や市や国、そして社会へと
大きく広がってしまう危険すらはらんでいるのかもしれません。
『エディントンへようこそ』感想
エディントンという小さな町から始まったのは保安官と市長という
互いに市民を守る立場だったはずのささいな争いでした。
しかし思いやりを掲げたジョーの正義がバズったことから
争いはどんどん拡散されて行き、
ひいてはジョー自身の破滅のみならず、周りをも破滅へと
追い込んでいったのかもしれません。
テッドもジョーも勢いを失ったところでこの争いの覇者となったのは
新時代のSNSに作られた英雄の若者と、謎のデーターセンターの存在だと
言えるでしょう。
そして争いは終わったのではなく、始まったのだということが
示唆される不穏なラスト。
アリ・アスター監督が本作に潜ませた
本物の悪党は何だと思いましたか?
市長らに煙たがられていたホームレスに水を渡していたジョー。
マイケルの昇進を考えていたジョー。
ルイーズの人形を影でさばいていたジョー。
そんなジョーの思いやりを消し去ったのは何なのか?
他人事ではない、現代にも、そしてこれからの社会にもはびこるであろう
悪の存在に立ち向かうべき失ってはいけない物が人類にはあるのだと
思わされる一作でした。
