第81回ベネチア国際映画祭でニコール・キッドマンが女優賞を受賞した
A24製作の衝撃作
『ベイビーーガール』
A24史上最高に挑発的と称された本作の衝撃について
感想、考察を綴っています。
『ベイビーガール』あらすじ
\✧A24史上、最高に挑発的!★★★TIME✧/
— 映画『ベイビーガール』公式 (@babygirlmoviejp) December 25, 2024
⠀
⠀⊱∘『#映画ベイビーガール』∘⊰
💜日本版メインビジュアル解禁💜
⠀
や め な い で
*.❅* ゚*
⠀
⋯ ⋯ ⋯ ⋯
美しきCEOの欲望が、
年下のインターンとの出会いで暴かれてゆく
その”手綱”は彼女が握っているはずだった——
⋯ ⋯ ⋯ ⋯… pic.twitter.com/VQE6ZYRTfB
ニューヨークで成功をおさめ、
大企業のCEOとして活躍するロミー。
舞台演出家の夫ジェイコブと、2人の娘との
優雅な暮らしを送っていた。
ある日の出勤途中でロミーは、暴走してしまった犬を何食わぬ顔で
いとも簡単に手名付けた一人の男性にくぎ付けになる。
しかしその男性はロミーの会社のインターンとして現れた。
彼の名前はサミュエル。
サミュエルに犬を手名づけられる理由を尋ねるロミーと
そんなロミーの内心を見透かすように、
サミュエルはロミーを挑発するのだった・・・。
キャスト
ニコール・キッドマン、ハリス・ディキンソン、ソフィー・ワイルド、
エスター・マクレガー、ヴォーン・ライリー、アントニオ・バンデラス 他
以下、結末のネタバレを含みます。
未視聴の方はご注意ください。
本記事の情報は2025年6月時点のものです。
最新の情報は各サイトにてご確認くださいませ。
『ベイビーガール』ネタバレ感想・考察
A24製作と言えば、『ミッドサマー』や『ロブスター』を始めとする
強烈な後味を残す作品が多いという印象があります。
そんなA24が新たに描くのはミッドライフ・クライシスに追い込まれた女性。
本作の主人公ロミーは女性CEOとして権力を保持し、
優しい夫と可愛い子供たちというプライベートも充実していました。
これで良しとしていた自身のキャリアや人間関係、人生設計
といったものが、完璧に達した50代半ばを過ぎ、
本当に欲しいものについては手に入っていないことに気づきます。
そんな葛藤は人生そのものへの迷いや不安に変わって行ったのです。
そんな時に出会ったインターンのサミュエル。
彼もまた葛藤中の身だったのかもしれません。
だからこそ、CEOでありながら曇った瞳をしている
ロミーの心中を察することができたのではないでしょうか。
CEOと妻と母
昼間は大企業のCEOとして多忙な日々を送り、
帰宅すれば思春期で難しい年ごろの娘を2人
見守る母親としての役目。
そして夜になれば夫婦円満の秘訣ともいえる
コミュニケーションに徹します。
CEOと妻と母親という3つの顔を使い分けるロミーは
息つく間もない日々を送っていたのです。
しかしふと気づけば老いが迫っているのに満たされない
という不安がよぎります。
ある日の出勤途中に暴走してロミーの元に迫って来ようとする
犬を容易に手名付けた一人の男性に出会のです。
しかもその男性は自身の会社のインターンとして再会しました。
彼の名前はサミュエル。
どうして犬を簡単に手名付けられるのか?
と尋ねたロミーに
クッキーを持っているから
だと答えるサミュエル。
続けて『クッキー欲しい?』
とCEOであるロミーを挑発するのでした。
一方ロミーの方はそんな屈辱的な態度に
何かを感じ取ってしまうのです。
サミュエルの方もそんなロミーの内心を見逃すことはありませんでした。
欲求と支配を懸けたゲーム
一杯の牛乳がロミーの元に届けられたことから
支配を掛けたゲームが開始します。
牛乳を届けたのはサミュエル。
そしてそれを飲み干して見せるロミー。
飲んであげたのか?飲まされたのか?
『支配』を懸けたゲームが開始します。
大企業のCEOとしての権力を備えたロミーの
心の中でうごめくのは支配されたい欲。
その欲望を満たしてくれるサミュエルとの時間は
本当のロミーを解放してくれる瞬間でした。
しかしロミーとサミュエルの秘密の時間は
暴かれることになります。
告白と選択
ジェイコブに暴露した本当の自分と欲望。
しかし当然ながらジェイコブはロミーの行動を
許すことが出来ません。
そんな時、サミュエルがロミー宅へやって来て、
ジェイコブにロミーの情事の相手がサミュエルだと露呈してしまうのです。
そんな中
サミュエルの交際相手で秘書のエスメは激励します。
ロミーとサミュエルとの関係を知りながら、
暴露をするのではなく、女性の目標であるCEOの貴方に戻って欲しいと。
欲望を満たす休暇の終わり
ロミーは元のCEOとしての自分に戻ります。
サミュエルとの時間は、ひっ迫した現実から少し逃避するための
欲望を満たす休暇のようでした。
念願の解放を経験したロミーは
最強になって戻って行きます。
自身の欲望を満たし、休暇から戻るロミーは
サミュエルを東京に行かせました。
それはサミュエルの本意ではなかったのでしょう。
サミュエルからロミーとのことを聞いたと思われる
男性の役員の一人がロミーに誘いをかけてきます。
しかし彼にむかって毅然として態度で
その誘いを払いのけたロミーは
何が自分を生かしてくれる糧になっているのか
受け止めたようでした。
ジェイコブとの夜はこれまでと一変していました。
ロミーの嗜好に寄り添うジェイコブ。
その一方でロミーはサミュエルが大型犬を手名づけ、
調教している場面を想像しながらジェイコブとの
行為に浸るのでした・・・。
女性監督が描く欲望の解放
本作の監督は自らも女優として活躍するハリナ・ラインで、
80年代に公開されたセクシャルな作品に影響を受けながらも、
不貞行為に及んだ女性が罰せられるという結末には
共感できなかったと言います。
そんな監督は本作において
『支配』を懸けたゲームの結末をロミーに軍配を上げさせました。
その結果、夢中になり、一緒に休暇を楽しんでくれたサミュエルを
遠くへ飛ばしたのです。
ロミーは完璧な人生を送る裏で老いというコンプレックスや本当の性の嗜好
という秘密を抱えた自分を好きになれなかったのではないでしょうか。
そんなロミーはサミュエルと出会って自身の気持ちに正直になり
重圧や役割から解放され自分自身を受け入れることができたのでしょう。
大企業のCEOという仮面をかぶった中身は
複雑な思いや不安を抱えた少女のままだったのです。
物語はジェイコブと復縁し、性の嗜好にも寄り添って貰うという夫妻の
仲睦まじいラストが描かれます。
一見、ハッピーエンドな描写は
そんな最中でもサミュエルを思い浮かべてしまうロミー・・・
で幕を閉じるのです。
これはジェイコブがどんなに寄り添おうとも、与えてくれる快楽や
屈辱はサミュエルには叶わないと自覚してしまった示唆なのではないでしょうか。
それでも最も大切な家族のそばで
自分を受け入れて行く未来に進むロミーはもう
『ベイビーガール』ではないのかもしれません。
多くの女性が抱える、葛藤、不安、コンプレックスそして秘密。
ロミーのそれらと全く同じではなくても、共感できると思う人も
多いのではないでしょうか。
女性の正体とは、
いくつもの顔がある複雑な生き物、
なのかもしれませんね!