実際に政権に対し厳しく追及する
東京新聞の記者・望月衣塑子氏の同名ベストセラー小説を
原案として制作されたフィクション
映画『新聞記者』
後に米倉涼子主演でドラマも制作されました。
しかし映画の方はその過激な内容から主演を担当する俳優が
見つからなかったという噂が飛び交っていました。
それゆえなのか?韓国女優のシム・ウンギョンが主演に抜擢されました。
真実を追及する新聞記者とある出来事をきっかけに葛藤の渦に飲み込まれる
エリート官僚を描いた社会派サスペンスドラマ。
その結末が波紋をよんでいます。
エリート官僚杉原の最後の言葉は何だったのか?
ラストの解釈に迫ります。
『新聞記者』あらすじ
俺たちは一体、何を守ってきたんだろう…#衝撃公開まであと10日 #新聞記者 #6月28日公開 https://t.co/blUoHvFxZ0 pic.twitter.com/BBchbaEY0r
— 映画「新聞記者」 (@shimbunkisha) June 18, 2019
東都新聞社会部の記者・吉岡エリカは
ジャーナリストの父親が誤報による苦悩から
自ら命を絶ったという過去があった。
ある日、社会部に何者かが大学新設計画に関する
極秘情報が記されたFAXを送信してきた。
一方、外務省勤務だった杉原拓海は現在
内閣情報調査室に赴任していた。
杉原は政府にとって都合の悪い情報の操作をすることが責務の
仕事に対し、疑問がわき始めていた。
吉岡は上司の陣野からFAXの出どころなどの調査を任される。
杉原は外務省時代の上司・神崎から久しぶりに連絡を貰い
一緒に酒をたしなんだ。
その際神崎は酔いつぶれてしまい杉原が家に送り届けた。
神崎の妻は杉原に何かを言おうとしたがその言葉を飲み込んだ。
その頃、吉岡はFAXの送信者が神崎だとつきとめる。
しかし神崎にその真意を確かめることは
もうできなかった・・・。
キャスト
シム・ウンギョン、松坂桃李、本田翼、岡山天音、郭智博、長田成哉、
西田尚美、高橋和也、北村有起哉、田中哲司 他
以下、結末のネタバレを含みます。
未視聴の方はご注意ください。
本記事の情報は2025年時点のものです。
最新の情報は各サイトにご確認くださいませ。
ラストの言葉は何だったのか?
神崎は杉原に、すまないと言い残し自ら命を絶ってしまったのです。
FAXの送信者が神崎だと気づいた吉岡と、
慕っていた上司の不信な最後に疑問を抱いた杉原は
共に真実を暴く決意をします。
衝撃のスクープ
2人の調査で判明したのは
内閣府が設置を進める医療系の学校の裏に
真の目的があったということでした。
さらに神崎の机の引き出しからヒントを得た2人は
その目的が軍事技術の開発や研究であると
気づくのでした。
これらの調査結果を記事にする吉岡でしたが
誤報だとされた場合は実名を出してもらって
構わないと杉原も意気込みます。
吉岡の上司も許可を出し、その記事は大々的にスクープされました。
悲劇の理由
しかし、吉岡には圧力がかかります。
吉岡のスクープが誤報であることはもちろん、
吉岡の父の記事まで蒸し返されていました。
そして無事に子どもが生まれた杉原家には
神崎からの手紙が届いていたのです。
そこには神崎が追い込められた理由が記されていました。
国民の税金が個人的に不正に利用されており
その決済を神崎がしたこと、
度重なる罪をかぶることに疲れ自らの命を終わらせてしまったのでした。
明かされた真相
圧力がかかってしまう吉岡でしたが
他社が後追い記事を出していることもあり、
杉原の実名報道として続報を出すべく意気込んでいました。
杉原の元へ向かう道中、多田から連絡を受けます。
「父親の記事は実は誤報ではなかった。でも君の父親はもういない。」
・・・と。
吉岡は気丈に「わざわざありがとうございました」
と言い返しました。
しかしそれは吉岡の父親は自ら命を絶ったのではないこと
を示唆していました。
目の前で多田が吉岡に告げたそのやりとりを
聞いていたのは杉原でした。
多田は杉原に「外務省へ戻してやる。しばらく外国で暮らせ。
その代わり今持っている情報は全て忘れろ。」
と詰め寄りました。
妻も子どももいる杉原は愕然とします。
ラストの杉原の言葉は「ごめん」
肩を落として内調を出た杉原を横断歩道の向こうで
吉岡が見つけました。
すると杉原も吉岡に気づいて静かに口を開きました。
ごめん
・・・と。
杉原の「ごめん」の真意とは
ラストシーンの杉原の「ごめん」
そしてそれを見た吉岡の表情をどのように解釈しましたか?
劇中2度あった「ごめん」。
一度目は赤ちゃん誕生に涙し放った「ごめん」。
その意味は、
これから自分がすることは家族を犠牲にして
国民のために戦うということに対してでしょう。
そしてラストで放った杉原の「ごめん」には
どんな意味が含まれていたのでしょうか。
神崎からの手紙に書かれていたこと
神崎からの手紙に書かれていたのは
彼が自ら命を絶った理由と謝罪でした。
そこには首相の古い友人に国民の税金が
横流しされているということ。
そして神崎はそれに加担してしまったということです。
神崎にとって罪を被るのはこれが二度目となり、
もうそんな悪事に手を貸す自分自身に耐えられなかった
ということでした。
杉原が手紙を手にした時、
「あのこと」が書かれているだろうと予想して
震えてしまったかもしれません。
しかしなぜ「あのこと」は書かれていなかったのでしょうか。
これには二つの解釈があるのだと思います。
一つは「あのこと」自体存在しなかったから。
そしてもう一つは、神崎さんの配慮です。
「あのこと」は気軽に口にしてはいけない案件なのです。
それは神崎さんが自分一人が秘密を抱えて飛び降りればいい
そういう配慮だったのではないでしょうか。
神崎さんはそのことに苦悩しながらも
家族にも杉原にも言ってはいけないその内容に
押しつぶされてしまったのかもしれません。
自分を裏切った杉原
神崎が自分に重要な秘密を託さなかった理由は何なのか?
杉原は多田が吉岡にかけた電話の内容で知ることになるのです。
真実を知った吉岡の父親は抹殺されてしまったのではないか?
多田が吉岡にかけた電話は吉岡に対する脅しであるとともに、
杉原をもまた脅していたのです。
これ以上踏み込めば、命の危険がある、しかもそれが杉原自身とは限らない。
もしかしたら神崎さんも家族を守って身を投げたのではないか、
そんな疑念もよぎった瞬間、守るものがある杉原には
それ以上一歩も踏み出すことができなかったのです。
しかしそれは「国民のために」誠心誠意尽くすことをモットーにしていた
杉原の自分自身を裏切る行為でもありました。
ラストシーンの2人
ラストで吉岡は多田の電話を受けて、
父親の記事が誤報ではなく真実を捉えていたことを知ります。
それは父の背中を追う吉岡にとって
突き進む力を与えてくれる告白でもあったのです。
さらに高見へ登ろうとする吉岡が見たものは
絶望の淵を歩く憔悴しきった杉原の姿でした。
声を出すこともできない杉原の「ごめん」を目にした
吉岡の表情が変化して、この物語は幕を閉じました。
あの後、杉原はどうなったのでしょうか。
筆者は極度のストレス状態で倒れてしまったのではないか
と推察しています。
誰に向けた「ごめん」だったのか?
杉原が最後に口にした「ごめん」は、
目の前の吉岡に向けたものであり、国民に対しての言葉であり、
上司の正義を果たせなかった無念であり、
巻き込んでしまった家族への謝罪だったのではないでしょうか。
『新聞記者』感想
ラストの松坂桃李さんの絶望エンドは衝撃でした。
自分の正義を掲げて国民のために戦うことを決意した
杉原は、自身が立ち向かおうとしている相手の
巨大さに気づいてしまったのですね。
その先に進めば、自身にも家族にさえも危険が及ぶかもしれない。
それは官僚であろうとも杉原一人では声をあげることもできないという
現実があかるみになった瞬間だったのではないでしょうか。
一歩も動けず言われるがままに家族を守る選択をしたものの、
国民のために尽くすという官僚としての信念は砕かれ、
完膚なきまでの敗北を噛みしめたのでしょう。
一方で、まだその実態を知らないのか?それとも彼女の抱く正義感もまた
巨大なのか?吉岡は少しもひるむことなく進んでいきそうです。
しかし杉原の協力なくしては吉岡の記事もまた
誤報扱いの一途をたどってしまうのかもしれません。
「この国の民主主義は形だけで良い」
と言い放った多田は国民に対して諦めの気持ちを抱いているのでしょうか。
どんな疑惑があろうとも、不信感が沸き上がってきても、
それでも何も行動を起こすことはない。
真実を見破る力も備わっていないから、
いとも簡単に情報操作ができる・・・と。
多田の力説に抗うことが出来ず
屈してしまった杉原の姿は私たちなのかもしれません。
まるで物語の途中のようなラストは
その先を視聴者に託したのかもしれない
と思わされる一作でした。